20 Side.グーロ 2
嘗ての記憶を思い返す…。
最初に自己を認識したのは何時だっただろうか…。
最初に本能以外を理解したのは何時だっただろうか…。
最初に感情を得た時に思ったことが、苦しいだったことは覚えている…。
その感情を苦しいということだと認識したのは、支配者の眷属になってからだが…。
支配者には感謝の念しか湧かない…。
(…あの時…、支配者に拾われていなかったなら…、間違いなく私は…、飢えと恐怖と絶望を抱えたまま…、死んでいただろうから……)
嘗ての私は、本能の赴くままに捕食を繰り返していた。
自己を認識してから後も、捕食し続けた。
だが感情を得た後は、苦しみから逃れるためにあらゆるものを捕食した。
とにかく何でも捕食した。
捕食して捕食して捕食して捕食して、それでも満たされなくて。
苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて、とにかく捕食し続けた。
そうしてあらゆるものを喰らい尽くし、遂には食べられるものが何も無くなり、苦しみと恐怖と絶望に支配されながらただ飢えて死ぬのを待つだけだった私を、支配者は救ってくれた…。
『そうか…、君は苦しいのか…。 なら…、僕の眷属にならないか…? 君を苛むもの全てを…、僕が取り払ってあげるよ……』
この時の私には、何を言われているのか解らなかった…。
私を捕食しそうなほど厖大な気配を持つ目の前の小さな人からは、私に対する敵意を微塵も感じなかった…。
だから私は、差し出されたその手に、躊躇いながらも縋った…。
そしてその手を取った瞬間、私を苛んでいた全てが消え去っていた…。
私はその時に、歓喜という感情と、親愛という感情を理解した…。
本当に、支配者には感謝の念しか湧かない…。
ただの獣だった私を、支配者は人にしてくれたのだから…。
だから私は…、支配者の力に成る…。
私の全てである支配者に、私の全てを賭けて奉仕する…。
それがあの時、支配者に拾われた私が抱く、唯一の望みだから…。
「…支配者……」
『どうした…? グーロ……』
「…んーん…。 …何でも…、ない……」
『そうか……』
他愛のないやり取りであっても、支配者とならば、途方もなく幸せな時間だ…。
(…支配者が望むのならば…、私は……)
想いと共に、支配者に身体を預ける…。
そんな幸福な時間は、扉を開け放つ者の出現ともに、終わりを告げた…。
「造物主様~! 連れてきたよ~!」
「…失礼するぞい……」
『お帰り…、シメール…。 そしてようこそ…、レイア……」
「…はぁ…。 …相変わらず…、馬鹿は空気を読めない……」
「帰って早々辛辣じゃな~い~!?」
(折角の幸福な時間を…、察して待つぐらいのことはできないのだろうか…。 できないのだろうな……)
「何か失礼なこと考えてない~?」
「…馬鹿の気のせい…。 …気にしてたらハゲるよ……」
「そうならないこと知ってて言ってるよね~!?」
抜けた毛も、シメールの一部である。
分裂しようとも、それをシメールの意のままに操ることができる…。
お互いの能力は似通っているのに、性格はまるで正反対…。
まぁそのおかげか、気の合う部分も多いのだけど…。
「…それで…、その人が…、眷属になりたい人…?」
「そ~そ~」
『安心するといい…、レイア…。 気が変わったのであれば…、今からでも元の世界へ丁重に送り返そう……』
「…いや、ワシの気持ちは変わらない…。ワシを、貴殿の眷属にしてくれぬか…?」
今回もまた、新たな同志が増えそうだ…。




