第六話 黒翼の力(魂の鍵)
第六話 黒翼の力
「本当に驚いたわよ。まさか冥界から戻ってくるとは思ってなかったわよ。」
「うーん、冗談抜きで何度か行きかけてたから”道”が見えたの。そのたびにガイル先生が呼び戻してくれたから。」
この子はエフェメラルダ。人間のくせにウチの友人にまでなってしまった同い年の少女。
厳密には今度のことで人間を止めてしまったのだけど。
いまは不死者、永久の彷徨い人。今回の巫女様が初めて生み出した再生者、聖石を持つものの最初の人。
「もし、まともに”命の流れ”に乗っていたら二,三巡目には後輩になってたでしょうね。今回のことがなければ次辺りで巫女候補として隔離されてたろうし。この”強制”は命を削ることになるからもう次はないかもしれないの。それでもいいの?」
{はい、大丈夫です。わたしはこのまま上に行ってもきっと駄目なんだと思います。
もしこのまま生まれ変わっても、光の川の中で思い出す度に後悔するでしょう。機会があったのにと。
たとえ消えたとしてもこのことで世界の流れが良くなるならもう迷いはないです。
それに今の人生を終えるには惜しすぎます。世界が変わるその瞬間を見られるのですから。それを見届けるまでに任務が終わるとは思えませんし。
うふふ。聞こえていましたわよ、ジェイルさんも知っててあんな風に話を振ってくるし。
まだ迷っているようなら、こう言いますわよ。『これはわたしが望んだことです。わたしのことを友と呼んでくれるならわたしの願いを叶えてシンディーちゃん。』}
ウチの力によりシンディーちゃんとのやりとりも全て聞こえていました。そして抱きつくように彼女を包み込んだ強くて美しい輝きを持った魂を・・・
もし彼女の肉体が穢されたり傷つけられたりしていたらすぐには再生できなかったようです。ジェイルさんの清廉さに感心します。エフェの魂が彼を取り込んで同化するほど気に入ったのもうなずけます。不安定だったきらめきに安定感が生まれました。もう心配はないです。彼女は立派なお医者様になるでしょう。
幻の惨劇から一週間、エフィの死から三日。
待ちに待った連絡が来ました。
『月の翼』からのつなぎです。
諜報係の一人が次の留学生の護衛のためこちらに来るそうです。
話したいことは沢山あります。まずこの体のことを話して仲間から外れることを謝らなければ。
赤月に対してもこちらで掴んだ情報もあるし、敵対組織とも共闘できるよう調整しないといけない。
ナナさんのこともあります。そのつてでお母様の修理工房のめどが立ちそうです。
そしてわたしの最高の親友達を紹介したい。
その日は朝からそわそわしているのが丸わかりでした。
すでに手紙が届いた時点でみんなにばれて対策は終わっています。
黙っているとか教えないとか言う前にみんなに弄られました。
シルビーさんの残した女性専用の肉体言語。
何故かナナさんがマスターして別のタイプのファンが増えています。
撫でてもらうだけですごいことに・・・耐性のない子にはキツいでしょうね。
実は手紙が来たときにこの辺りの諜報担当はすでに魔力の特定は出来ていました。街には住んでは居ないようで、今までもたまにちょっと変わった感じの魔力を感じていたのですが、気が付いたのは手紙に残った波動からです。たぶん領主騒ぎ以後は監視すらしてないところをみると彼女にとってウチはもう居ない者扱いかも。任務上敵に捕まった時点で見捨てるしかないでしょうが。帰ってきてからせめて様子を見に来てくれても良かったのに、と言うわけでちょっとからかってみようと皆さん良い笑顔で話していました。一応薄情だとウチの代わりに怒ってくれてるんだろうけど、彼女自身それどころじゃなかったのかも。まだ誰が敵かも分からなかったんだから。
門の内側から来る人間以外の反応は結構少ないのでだいたい特定できました。
出てきたのは三人で、一人は彼女と入れ替わりに帰っていきました。
まず学園内のカフェで待合。
本来なら部屋からも出ることも出来ないはずなのによくそんなところで待ち合わせを決めましたね。
ウチもちょっとむかついた。
先に行って待ちます。みんな位置について待っています。目立たないように目立つフード付きローブを着て指定の席で待ちます。ウチらだとバレると人だかりが出来てしまうので目立つのは駄目です。みんなは光学迷彩や変装で見つからないようにしています。
恐らくみんなが騒ぎを起こすでしょうから担任予定のアンジェリカ先生の同席(隣のテーブルで待機してもらう)をお願いして待ちます。
待っているうちになんだかむかついてきました。何故なんの工作もないの?せめて事前に周辺の下調べ位すれば良いのになんの調査も無しです。直接こちらに向かってきてます。逆に監視は付いているようでそちらに気付かれないよう配置についた人たちはさらに監視を強めています。
どこまで無能ですか・・・
どこからみても怪しい三人組がやってきます。すっぽりとフードを被っていかにも怪しい。なんかウチも同じ格好なのにとても恥ずかしかった。わざとですか?
ウチの前に黙って立つと、
「こいつらを頼む。」
男の声を装ってそう言うと、いきなり置き去りですか?
立ち去ろうときびすを返した彼女の両脇からこっそり近寄ってきたユークとエミリーが肘を取りました。
「うーん、ちょっとおかしいんですよぉ。感情と肉体の反応がずれているって言うか・・・」
「じゃあ誰かに何かされてるっぽいの?」
「うん、何かはされてると思いますぅ。と言うことで、ナナさんエフィよろしくおねがいします。」
彼女はさっきから必死で逃れようと二人に蹴りや頭突き、出来ることを全てやっていたものの一切効いていません。
獣人の防御力に強化盾持ちのふたりには効くはずもないんですが、何故か、強化骨格や筋力効果上昇や電撃防御、ブースタージャンプとか持ってたはずのスキルを使っていません。あんなに練習してマスターしたのに。
ユークちゃんは血が半分ですが金の角の効果で普通の獣人以上の能力強化があります。
警戒してこちらをみている二人にフードを取って挨拶します。
「わたしは森の館のアスカあなたたちは?」
「・・・森の民ハリア。」「・・・しゅ、東沼のシャール。」
森妖精の少年と獣人装燐族の少女。
本来なら敵対してる種族のはずだけどな。まるでお互いをかばい合っている様子は特別中が良さそう。
「これはどちらも美味しそうな子供達だ。」興味深そうなアンジェリカ先生は今にも持って帰りたそうにしている。
整った顔と細身の体を持つ少年と、卵生のため殆ど胸のない少女ただし腰は足より太い尻尾のためとても立派に見えます。
顔とスタイルで見るとショタっぽい美少年2人に見えます。
人間の先生に怯えたのか後ずさる。その横でゆっくりとローブを脱ぎ翼を広げる。
陽光を反射してきらきらと光る漆黒の翼、その美しさは誰もが目を見張りため息をつく光景・・・・・自分で言ってるのはどうかと言われるかもしれないけど本当に綺麗なんだからね。
二人とも口を開けて呆然としています。
はっ!・・思わず前方に飛んで逃げます。やっとこを持ったアンジェリカが羽根を毟り取ろうとしていた。
「あーん、また逃げられちゃった。わたしもこの羽根欲しいわ-」
「だからあんたにはあげないって言ってンのよ!」
「ちぇっ。そのうちきっと手に入れてやるよ。けっけっけっ」
背筋が凍り付きました。素直に差し出した方が・・・いやいやそこはウチの誇りが・・・・
「まあ変態教師だが「おい!!仮にもお前らの大先輩だぞ!」困ったときは何でも聞いてくれる立派な教師だ。解決できないことはまずないから「おい褒めすぎだろう。」まあ悩み自体をぶち壊してしまうこともあるが信用は出来る。」
「む、何か微妙な紹介だがまあいい。去年から妙な連中ばっかり回ってくるが、あたしにまかせな!きっちり面倒見てやるさ。」
二人の背はアンジェリカ先生の肩辺り視線がその胸に・・・サイズはエミリーぐらいプロポーションはナナさんの次ぐらい良い、あれだけ不摂生な生活でよく維持できてますね。
ハリアは見とれて顔を赤らめ、シャールは彼と彼女の胸と自分の胸を見比べて酷く傷ついた顔をしてそっぽを向く「しゅ!」。ウチもたまに頭に来ることがあるからよく分かるよ。二人とも可愛いなあ。
「何をどこまで聞いているかは分からないけど、彼女は誰かに頭を弄られてるようなの。せめて元通りに出来るか見てもらってるからちょっと待っててね。ああ何か飲む?おなか空いてたら何でも頼んで良いよ。」
言いながらもう適当にみんなのも合わせて注文する。
光学遮蔽により完全に暗室と化したテラスの一角では素っ裸に剥かれた従姉妹のスズネが眠っています。
休憩の声を掛けてナナさんと入れ替わりにウチが入ります。
内臓こそ大きく損傷しなかったけど四肢は殆ど機械化され両目も機械が入っています。翼はどちらも失っています。代わりの反重力フィールドと加速ブースターを内蔵しています。ナナさんに教わるまで理論も分かりませんでしたが。
そしてわたしと決定的に違うのは、いえ違ったのは子宮が機能しなくなってしまったこと・・・
それらのことから”翼”では戦闘、諜報部に配置されたと聞いていました。
とりあえず眠らされて検査されていますが、何故ガイルが見ているんですか?
「彼女は今魔法が掛かっていません。恐らく魔法を使わない技術で肉体改造を受けたのでしょうがこれでは魔法による精神支配や肉体支配ではすぐにバレてしまうでしょう。精神自体を魔法で破壊あるいは改造してしまえばあとは魔法がなくても操れます。恐らくその類の魔法が使われたのでしょう。彼女のことは聞いたことがあります。何とか手に入れたかったのですが下手に敵に知られるのを恐れた幹部が洗脳の後、開放したと言ってました。」
「で、直せるの?」
「・・・・普通ならもう元には戻りません。残念ながら・・・・新たに上書きして無難な人格を植え付けるぐらいしか対処できないでしょう。」
「・・・なんで?壊したのはあんたらだろもとにもどしてよ、あれだけ好き勝手なことして何も出来ないの?どうしてウチらばっかりこんな目に遭うんだよどうして、平気な顔してこんなことが出来るんだよどうして、どうして、・・・どうして・・・・・・。」
・・・ウチは何も出来なかった・・・・唯一の血縁者が目の前に居るのに・・・
「手がないわけではありません。」
・・・・今なんて?
「まだ元に戻せる可能性はあります。」
「ほんとう?!戻せるの?どうすれば良いの何でもするから!」
「貴方の力です。」え?ウチの力・・・
「貴方の魂と語り合う力です。」
「この力でどうやればいいの?」
「今彼女の魂と肉体は中途半端な状態でつながっているのです。そうですね、言うなれば反覚醒状態、寝ぼけていて正しい判断が出来ないようにされている状態なんです。強制する命令の植え付けは出来るが自由意志での行動に関しては干渉することは出来ないんです。あとは分かるでしょう?」
「つまり直接魂に語りかけて目覚めさせろと・・・」
「巫女様の力では強すぎて魂の隠れている部分まで表に出てしまうだろう。」
つまり自分の意思で戻ってこなければならないと?そしてそれを促すための力だと?
ああ、このウチの力はこのための力だったんだ閉ざされた魂の扉を開くための力。扉?何か引っかかる。
でも今は・・・・
「これをどうぞ。」
ハンカチ?
「久しぶりに彼女と話をするんでしょう?ならば笑顔で迎えに行きましょう。」
本当にこの人はあの時の暗殺者なのですか?ずっとこんなだったらエフィのお医者様だった、て納得できるんだけど。
さあ、スズネ今から貴方の元に行きますよ。ちゃんと目を覚まさせてあげるね。そっと彼女を抱きしめるそしてその上から翼で繰るむ。
闇に染まった心の中に光りをもとめて・・・・




