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第八話

「ほんと、不用心だよね」


「鍵を開けてるの僕らだけどね」


 私達は故郷の破滅に関わったとされる国王へ報復を考えている。


 王に仇なす逆賊だ。


 だから、もしものための逃走ルートは常に確保している。

 その一つが、中庭の窓だ。

 

 廊下は薄暗く、ヒンヤリとした空気が肌を撫でた。

 日中の記憶を頼りに地下教室へ行く道を辿っていると、バーツが口を開いた。


「ねえ、忘れ物したって、嘘でしょ」


「どうして」


「わざわざ窓から侵入しなくたって、警備員に言えば入れてもらえるはず。そうしなかったのは、警備員が同伴することを危惧したから。つまり、僕らだけの方が都合良いってこと。それって――」


「――うん。探し物は迷路のゴール」


「……やっぱり」


「考えてもみてよ。ゴールのない迷路。現実的に考えれば、ごく一部の人間、例えば王族だけが知っている秘密の通路があるとか、隠したい秘密があるはず。見逃す手はない」


 地下へと続く階段を下る。


「地下の方はさすがに暗くて見えないね」


 そう言いながら、バーツは懐中電灯をつけた。


 フィレンも動きをまねて下方を照らす。


 すると、光の裾先――ちょうど階段を下りきった先に何か、塊が浮かんだ。


 体がこわばり、足が止まる。


 フィレンの様子を見て、疑問に思ったのかバーツも下を伺う。


 ――人だ。


 人が倒れている。

 そう認識して、一気に駆け下りる。


 階段を下りきった足が、廊下に踏み出したとき、バシャ、と音を立てた。

 慌てて足を引いて、床を照らす。

 闇に溶けきった赤黒い液体があった。


 ――血だ。


 横たわる体を揺すってみても反応はない。

 弛緩した筋肉の上にある柔らかい脂肪――人間らしい感触と、まるで無機物を揺らしているような――相反する奇妙な感覚が、死を示していた。


 学生服を着た男だった。


 私達と同じ学生服の男。


 え、という声がして隣を振り向いた。


 金髪の親友が持つライトは横たわる男の頭部を写している。


 緑色の頭部を。

 見覚えのある後頭部だった。

 見覚えのある横顔だった。

 見覚えのある人物が、見覚えのない様子で地面に転がっている。


「ウィル……。ウィル! おい、返事をしろ!」


 風が、髪を吹き上げた。


 風上を見やると、光を飲み込むような闇が広がっていた。


 ここは地下の廊下だ。風なんか吹くはずもない。


 この先には何かがある。


 そう直感するとともに、足を踏み出していた。


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