第七話
「ゴールのない迷路?」
「そう。迷路のような空間があって、でもどれだけ探してもゴールがない」
ニファはまるで怪談をするように声を潜めた。
「あるとき、怪しい人の後ろをつけていったら、迷路のような場所に入って行った。でも、一向に出てこないの。一晩中迷路のそばで隠れて、入り口を見張っていたんだけどね、ついに人が戻ってこなかった。不可解に思って中に入り、壁伝いに歩いて行ったんだけど、誰にも会わず、入り口に戻ってきてしまった……。次の日、再びその場所に行くと、迷路自体、綺麗さっぱり消えていたらしいわ」
本当に怪談みたいだった。
「似たような迷路を見つけた人が別々の場所で複数人いるの。ただ、その誰もがゴールを見つけられなかったって」
「へえ、その噂をしてたのは学生?」
「うん、この学校の制服を着てたわ」
「てことは、迷路は敷地内か。場所はわからないの?」
「バラバラよ。商店街の路地裏、階段の下、裏庭とか」
「うん、わかった! ごちそうさま」
ミルクティーをぐいっと飲み干し、お礼を言って店を出た。
駆け足で追ってきたバーツが肩を叩く。
「ちょっと、急にどうしたのさ。忘れ物でも思い出したみたいに」
「……。うん。忘れ物。バーツも付いてきてくれる?」
「え、いいけど、明日じゃだめなの?」
「たぶん、ね」
ニファが言っていた、迷路があったという場所を思い出す。
商店街の路地裏。階段の下。裏庭。
共通することはどれも暗がりになるということ。
迷路が現れるのは恐らく暗闇の中。
暗い場所なら、今日行ったばかりだ。そう、ウィルに案内されて話をした地下教室。
学校が閉まる前だから、明かりが付いていたが、夜にはきっと……。
一度寮に戻り、学校に忍び込みやすい服装に着替えた後、懐中電灯を手に、まずは学校の裏庭へと向かう。
「一応見ておこうと思ったけど、裏庭に迷路はないね」
「……。ねえ、忘れ物取りに来たんじゃなかったの」
「いや、一応だよ、一応。念のため」
訝しげな顔で覗き込まれる。
目線を校舎に向け、話を切り替える。
「さ、中に入ろう」
校舎の裏庭側には、人がようやく入れる程度の小窓が並んでいる。
左から三番目の窓フレームを握り、手前に引く。
――と、きしむ音と共に窓が開いた。




