第六話
「ウィルは保留だね」
バーツがコーヒーを啜りながら言った。
フィレンとバーツは小さな喫茶店ヴィレーンのカウンターに座っている。
店内は緑を基調とした内装でぼうっとしているだけでも癒やされるお気に入りの空間だ。
ヴィレーンはウィンシャード騎士養成学校の敷地内商店街の一角にある。
昼は多くの学生や主婦でごった返しているが、月が顔を出した現在では二人の他に客はいない。
バーツが口にした『保留』というのは、ウィルを殺さずに、様子を見るという意味だ。
以前からフィレンの性別に気づいていたのが事実なら、少なくともウィンシャードの学生には言いふらしていない。
言いふらしていたなら、今頃寮を追い出されているだろう。
こうして、情状酌量の余地ありという結論に達した。
「それよりも、気になるのは――」
「にやけ面男と双子女だね」
ウィルと別れ、この喫茶店で集合してすぐ、例の出来事をバーツに伝えた。
ずっと前からウィルに女だと気づかれていたこと。
嫌な雰囲気のにやけ面男と、不思議な双子女が来たこと。
そして、男は現場を見てもいないのに、銃でウィルを撃とうとしたと知っていたこと。
女が奇妙な声で、私が『人を殺す』、『国を殺す』と言ったこと。
ただ、ウィルの個人的な悩みについては伝えなかった。
他に伝えるべき情報があったし、特別言う必要も感じなかったから。
「そう。その、フィレンの言うところのにやけ面男達は地下に何をしに来ていたんだろう?」
「……確かに」
私達が地下の教室に行った理由は誰にも聞かれずに落ち着いて会話が出来るからだ。
ただ、彼らの目的は恐らく違う。
もし秘密裏の会話が目的なら、ウィルが退出を申し出たときに受け入れたはずだ。
それに最後は彼らから先に教室を出た。
誰にも聞かれたくない話をするつもりだったら、先に私達が出て行くのを確認するだろう。
喫茶店の店主がロイヤルミルクティーを机に置いた。
ミルクの甘い香りがする。
「当店自慢のロイヤルミルクティーです」
店主に向けて聞く。
「ねえ、ニファはどう思う?」
ニファというのは、彼女の名前だ。
歳も出身もフィレンと同じ。
つまり、『故郷を壊した犯人探し』と『故郷の復興』という途方もない道のりを旅する仲間だ。
ニファは艶やかなグレーの髪を揺らして考える素振りをした。
指先を顎に当て、首をかしげる姿は令嬢のような気品を感じさせる。
「うーん。目的か……。そのにやけ面男の男ってどんな顔だったの?」
「ええ! そっち? えっとね」
フィレンは左の人差し指で口元を引き上げ、顎を突き出すようにした。
くっくっ、という声が隣から漏れ出た。
ニファも下を向いて肩を震わせている。
「もう! 真剣にやってるのに!」
「フィレン、よくそんな男を前にして笑わなかったわね」
隣から、わはは、と声が出る。
「覚えておくわ。にやけ面男と双子の女の子ね」
「……頼んだよ」
笑われたのは不服だったが、ニファの情報収集能力は高い。彼女は顔を覚えるのが得意で、一度見た人の顔や声を忘れない。
彼女の力なしでは、私達の目標は達成できないだろう。
その力に免じて今回は許してあげることにした。
「なにか、国王の新しい情報はある?」
「国王の方はなにも。ただ……変わった噂は聞いたわね」
「噂?」
「ゴールのない迷路の噂」




