第五十九話
困ったことになった。
暗闇ではあったけども、フィレンの目には襲ってきた男がサリトールのように見えた。
しかし、ここは王城で。
刺されたのは使用人で。
犯人は王子で。
いや、まだ決まったわけじゃない。
本当にパーティーに参加していれば、サリトールのアリバイが証明されるはずだ。
だから、心底驚いた。
彼が、薄い金髪の彼が、診療室に何食わぬ顔で入ってきたときは……。
「――サリトール?」
「ビレーヌさん。これは、これは一体なんてこと。何があったんです!」
彼は肩を掴んでそう言った。
「刺された」
「誰に!」
腹の中から熱いものが湧き上がってくる。
こいつは周りに使用人や兵士がいて、私が「王子が犯人だ」と言えない状況で訊いてきた。
「……」
手を振り払う。
この場にいてもなにも出来ない。
この国は腐っている。
気がつくと、外の雑木林を抜けリアと夜中に行った銅像の前に来ていた。
歴代の王が人を見下したような顔でポーズをとっている。
ずっと走ってきて上がっていた息が益々上がる。
目眩がしてその場に尻餅をついた。
下から見る銅像はこの世の憎しみを詰め込んだように醜く、恐ろしい姿をしていた。
点在している歴代の銅像も似たようなものだろうか。
ふと、思い出す。
リアの言葉。
『雑木林には代々の秘密が眠る』
サリトールも林の中に本を隠していた。
他の王子も、現国王もなにかを隠したのだろうか。
足元を見る。
土の地面の上にはまばらに草が生える。
銅像の建つ辺りは木が少なく開けているが、ここも雑木林の中だ。
手探りで周りの地面を確かめる。
と、一部が僅かに盛り上がっているように感じた。
手で掘り起こす。
中から土に汚れた銀の箱が現れた。
サリトールが本を隠すのに使っていた箱よりも上等なものだ。
力を入れて、滑りの悪くなった蓋を外す。
入っていたのは――。
「絵本?」




