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第五十八話

 さて、振り返ってみると今までは平和だったと思う。


 学校に行き、地下の謎を調べて、自称悪魔と戦い、全員が無事だった。


 城での生活も優雅なもので、張り詰めた糸がゆっくりと緩み始めていた。


 だが、いつだって油断したときに奪われる。


 この国は、この世の中はそういうふうにできている。




 肌寒かった。


 日が完全に落ちて、開け放った窓からは雑木林から風が運ばれてくる。


 長期戦を見据えて、潜り込んだ王子の――キングサイズの――ベッドに潜り込み、うつ伏せになってベランダを見据える。


 ベッドはベランダとは直角に置かれているため、必然的に本来寝る向きとは交わる形で隠れる。


 他人から見れば、変わった寝方をしているだけに見えるだろうが、体を隠しつつ、寒さも凌ぐことができるのは良いことだ。


 なにせ、長期戦。


 何度も言おう。


 ――長期戦。


 眠気との戦い。


 正直、先日ベランダに侵入した何者かが、二日連続で現れるとは思っていない。

 だから、腕にしがみついて暖を取っているリアをうっとうしいと思いつつ、適度に話しかけてくれるコーヒーのような役割を持つ彼女を重宝していた。


 その結果、油断しきった私は背後を取られた。


 うつ伏せになって、毛布を掛けているのだから、真上が背後だとも言えるだろう。


 言い換えれば、真下を取られた。


「うっ」というリアの声が聞こえ、人の気配にすぐさまベッドから飛び降りる。


 何者かがそこに立っていた。


 暗闇で一瞬誰だかわからなかった。


 今宵はパーティーがあると、目の前で第五王子から誘われ、断れず行くことになっていたはずだ。


 ここにいるはずがないから、脳が認識しなかったのかもしれない。


「サリトール?」


 返事はなかった。


 男は左手に持つ鋭利な得物(えもの)をこちらに向け、ベッドを回り込んでくる。


 とにかく声をかける。


「おい! サリトール! 私だ。ビレーヌだ!」


 動きが止まった――のは一瞬だった。


 ナイフを両手で握ると、一直線に突進をしてきた。


 ベッドから枕を抜き取り、受け止めると同時にみぞおちへ蹴り込む。


 男は背中から地面に倒れ込み、うめき声を上げた。


 サリトールの声だった。


 こちらのうろたえを察知してか、隙を突き、四つ足になりながらドアを突き破り、逃げていった。


 ベッドの明かりを灯す。


 部屋が照らされてから、ようやく事態を把握した。


 リアの背中にナイフが刺さっている。


 あの男は二つのナイフを持って、入ってきたのだ。


「リア! おい、聞こえるか」


 あまり揺すらないように、顔の付近に跪いて呼びかける。


「……うぅ」


 まだ、意識はある。


 ナイフを抜いてしまうと、大量に血液が溢れだし、ショック死に陥る可能性がある。


 フィレンは廊下へ飛び出し、叫んだ。


「夜盗だ! 助けてくれ!」


 すぐに数名の兵士がやってきた。


「何だ。何があった!」


「状況を説明するのは後だ。ナイフを抜かずにリアを治療室に。急げ!」

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