第六十話
本は全体的にボロボロだが、表紙の絵は読み取れそうだ。
金髪で赤い目を持った少年が真ん中にいて、背景に大勢の人々がいる。
ただ、人々は皆後ろを向いており、顔は見えない。
「ええと、タイトルは……『うらぎりの』、までしか読めないな」
裏切りか、絵本にしては子供向けとは思えないな。
表紙をめくる。
『少年にはお金も地位もあったが、唯一、友はいなかった』
中身は一部読めない部分があるけれど、大筋はこのような話だ。
恵まれた環境による嫉妬から、周りからいじめられていた少年は、決してすり寄ることをせず、むしろ相手を馬鹿にし、恨みを買うような行動をした。
より苛烈にいじめられるかと思ったが、ある時を境に一人二人といじめを止め、逆にその少年に仕えるようになった。
その輪は町中に広がっていき、やがて国のトップに君臨し、少年は名誉を手に入れた。
「結局は金……という話なのか?」
しかし、気になったところもある。
少年はなぜか音楽が嫌いだった。
町でパレードをやっているときは家に引きこもり、親にコンサートへ連れて行かれそうになると仮病を使っていた――。
やけに、具体的な話というか……、お話としては不要な部分が多いように感じる。
装丁も貧相だし、特別な価値があるようには見えない。
なぜ、銅像の前に埋めてあったのだろう。
王城への帰路の途中、例のベランダが見えた。
昨夜には何者かが現れたフィレンの部屋のベランダ。
視線を上にずらすと、そこは今夜張り込んでいた王子の部屋のベランダだ。
そこにも縄はしごが掛かっていて、いくつかの花壇があり、花壇を手入れするためだろうかシャベルが立て掛けてある。
「ん? なにか違和感が……そうか!」
フィレンは全速力で駆け出した。
第六王子の寝室に飛び込む。
地面にはリアの血が落ちたままになっている。
ベッドの頭にある灯りを手に持って、ベランダへと向かう。
血で汚れた箇所以外は、ちり一つも落ちていない掃除の行き届いた部屋だ。
ベランダには外から見たシャベルが置いてあった。
シャベルの下は土が落ちていて、すぐ側にいくつかの花壇が並べられている。
「おかしい……」
花壇は比較的小さなものが並べられている。
そんな花壇を手入れするのに大きなシャベルを使ってしまえば、たちまち花を傷つけたりして不便なはずだ。
だが、シャベルには土が付いている。
フィレンは部屋に戻り、隅々まで照らしながら床を確認する。
――やはり、血が滴った箇所以外は綺麗だな。
廊下へと出て、使用人に訊く。
「この、サリトール王子の寝室って毎日掃除しているのですか」
「掃除するのは平日のみです。今日のような休日はいつお休みになるかわかりませんので、寝室には入らないようにしています」
決まりだな。
昨夜のベランダに現れた何者かは――。




