第五十六話
サリトールの部屋を訪ねると、薄い金髪の王子はフィレン達を中に招き入れた。
しきりに机の引き出しを気にしているようだったけど、きっと掘り出し物の本でも隠しているのだろう。
幼少期に書いた恥ずかしいノートの中身は気になるが、その件で来たわけじゃない。
椅子に座ると、リアが昨夜の出来事を共有した。
ベランダに人影があったこと。
縄はしごが下ろされていたこと。
雑木林には誰もいなかったこと。
誰かがいた痕跡すらもなかったこと。
金銭が目的とは思えないこと。
話を聞き終えた王子は足を組んで一考した後、口を開く。
「つまり、私が目的だった? 何か話したいことがあったのか、はたまた暗殺をしようとしたのか」
「昨夜、変わったことはなかった?」
フィレンが訊く。王子に頼まれたから敬語は使わないようにしているが、まだ慣れない。
王子は宙を見ながら唸っている。
「なかったと思います。少なくとも記憶はありません」
――妙な言い方をする。
そう思った。
が、嘘をついているようには見えなかったので追及はしないでおく。重要なのは侵入者の目的だ。
「では、既に侵入者の目的は達成されたのか、もしくは、予定外の出来事で中断をしたか。……サリトール、今日は一緒の寝室で過ごそう」
「え? いえ、そんな、兵士にでも見守らせれば――」
「駄目。犯人は内部の人間という可能性があるから、私達三人で待ち伏せる方がいい。悪いけど、リアも付き合ってくれるか」
「はい。何なりとお申し付けください」とリアは丁寧に腰を折った。
二人っきりのときとは違って、作法のある言動に面食らう。
彼女はテキトウで調子の良い性格を内に秘めている。
もっと他人に寄っていっても嫌がられないと思うが、きっと距離感を模索中なのだろう。
王子とのやりとりが以前よりも活発になっているところを見るとそう思えた。
もっとも、彼女自身が自覚しているかはわからないが、この調査を通じて王子との距離が縮まったら嬉しい。
少しばかりはそんな意図もあった。
「じゃ、今夜は皆で夜通し張り込もう。王子の寝室でね」
サリトールにウインクをする。
忘れてはいけないが、この城に潜り込んだフィレンの目的は王子に惚れさせて手駒にし、王族についての情報を聞き出すことだ。
第六王子は目を逸らし、リアはなぜか頬を膨らませていた。




