第五十四話
フィレンは昨夜も通った道を再び歩いている。
ベランダから見える雑木林の中である。
「この木々は、はるか昔から王子の成長を見守っております。私の子供の頃も、王様の子供の頃も、さらに先代が子供の頃も、皆ここがのびのびと遊べる場所なのです」
そう第六王子は言った。
リアは王子の後ろを大型のシャベルを抱えて歩いている。
フィレンはさりげなく、できる限り抑揚をつけずに訊いた。
「代々の秘密とやらもここに?」
「ええ、恐らくここら辺に埋まっているでしょう」
サリトールはリアからシャベルを受け取ると、足元を掘り始めた。
フィレンとリアはその様子を眺めている。
――使用人は主人に穴を掘らせていいのか。
掘り進めると、ガッとシャベルが固い物に当たる音がした。
鉄で作られた四角い箱だ。
「懐かしい……」と王子は呟いて箱を開けると、中には本が一冊入っていた。
表紙はシンプルな柄で、何か文字が書かれて――。
と、唐突に王子が体全体で箱ごと覆い隠した。
「?」
疑問符を頭に思い浮かべる。
リアの方を見ると、彼女はなぜかニヤニヤとしていた。
「リア、どうかした?」
「いえ、何でもありませんよね、王子?」
王子は箱を抱えて立ち上がると、
「用事を思い出しました。失礼します!」足早にその場を去ろうとする。
体が勝手に動いた。
――何か隠し事がある。
そう直感してつい、行く手を阻んでしまった。
「……」
見つめ合う二人。静寂の時。
と、横からにゅっと手が出て、箱の中身を抜き去った。
「ああ、あああ、やめてくれ!」
王子とは思えない素っ頓狂な声で専属使用人を追いかける。
使用人は尻尾を追いかける猫のようにその場でクルクルと回り、本を読みながら王子の猛攻をかわす。
フィレンはその様子を上から覗き込むと、ある文字が見えた。
『さいきょうのまどうぐ』
最強の魔道具?
「……」
フィレンはそっと目を逸らした。




