第五十三話
リアは座っているフィレンの後方に回り込むと、こう言った。
「王子。実は、私達付き合っているのです」
王子、愕然。
というより、何を言っているのか分からないという顔だ。
「ビレーヌさん……付き合っているというのは?」
「勿論、買い物に――」とベタな常套句で誤魔化そうとすると、リアは追い打ちをかけた。
「キスまでしましたので」
「……」
王子、驚愕。
「ビ、ビレーヌ殿……。じ、事実でしょうか」
事実だ。
キスをしたこと自体は事実で、付き合っているというのは嘘だ。
嘘に事実を交えるとはなんとも度しがたい。
――なんて、冷静になっている場合ではない。
「ご、語弊です。なにか誤解が……」
「遊びだったのですか? 私、悲しいです」
白々しい悲観の声が後ろから聞こえる。
こうなったら、こちらも事実を交えつつ、反論するしかない。
「遊びなのはそちらでは。王子に構ってもらえないと言って、私に縋り、泣きついたのに、あれ以来一度も口づけをしてくださらないなんて……。ヒドいですわ」
「うっ……」
リア、うめき声、顔を赤く染める。
やはりな。幼い頃はリアが王子を引っ張っていたくらいだ。そんな自分が王子に構って欲しかったなんて、恥ずかしくてしょうがないのだろう。
状況に付いていけず、ついにフリーズした王子を眼前にしてリアはフィレンに耳打ちする。
「お遊びはここまでにいたしましょう」
無言で頷く。
「サリトール、どうでしたか? 私達の演技。舞踏会で一芸披露しなければいけなくなったときのために、練習していたのですが」
王子、ようやく機能。
「あ、ああ、なるほど。上手でした。いえ、上手なんてものではありません。全て事実なのではないかと信じそうになっていたところです。おかげで眠気が吹き飛びましたよ」
信じる寸前だったとは、危ないところだった。
にしても、王子も眠たかったとは――眠気を一切感じさせない所作には驚きだ。
フィレンは場が収まりつつあるのを察知し、次の話題――昨夜、リアがポロッと口走っていたこと――へと話を切り替えた。
「ところで、雑木林の秘密をご存じでしょうか」




