第五十二話
結論から話すと、誰も見つからなかった。
銅像に辿り着いた我々は小さな明かりを頼りに周囲を確認してまわったが特に奇妙な点はない。そもそも、幽霊が出そうという根も葉もないテキトーな考えで来たのだから、そう簡単になにかが見つかるとは思わなかったが。
しかし、雑木林は広い。
「銅像の付近でなければ林の中だ」と夜の探索を続行するが、それも空振りだった。
ではまた別の場所だと言われ、さらに探索は続く。
ちょっとした肝試しだったはずが、気づくとフルマラソンに化けていた。
結局、昨夜起きた恐怖体験はそれくらいだった。
気を抜くと気を失いそうになりながら、朝食をとる。
正面には第六王子が座っている。
以前のように大テーブルの端と端という遠距離で向かい合っているのではなく、フォークが食器に当たる僅かな音も聞こえるほどの距離――すぐ目の前に面があるという意味での正真正銘の正面だ。
しかし、今日に限っては目の前に座るべきじゃなかった。
ほぼ睡眠を取れていないフィレンの顔はやつれ、クマが出てたから。
「ビレーヌさん、体調が優れないのでしたら、部屋でお休みになられたらいかがでしょう」
サリトールはフィレンの顔を覗き込むように言った。
「いえ、本日はあなたの数少ない休日、ダンスの練習をしなければ。あと六日で舞踏会なのよ」
「そうですね。……では、早速ですがこの後お付き合いいただけますか」
「ええ。よろこんで」と重いまぶたを持ち上げ、サリトールに微笑みかけるとその背後にリアが立っていると気づいた。
彼女もまた、ほとんど寝ていないはずだ、他人がうとうとする様子を見るとなぜか目が覚める現象を利用しよう。
そう思い、リアに視線を移す。
が、彼女はピシッと着こなされた使用人服で背筋を伸ばし、後ろで手を組んで目を閉じる様子は王を護衛する騎士のようだった。
流石は王族に仕える使用人。
睡魔になんて負けてられないのだ。
――って、『目を閉じる様子』?
いつも王子の専属使用人として、後方で待機しているのは見ていたが、目を閉じていただろうか。
そんな疑問と共に、フィレンの中に少年のようなイタズラ心が湧き出てきた。
――私が眠いのは昨夜リアに連れ回されたせいでもある。ここは一矢報いるチャンスだ。
フィレンは王子の後ろを指差すと、
「きゃあ! 虫!」と叫ぶ。
王子は素早く後ろを振り返り、そしてリアは途轍もない速度で横っ飛び、そのまま地面にぶっ倒れた。
唖然とする王子。
リアは何事も無かったかのようにホコリを払う所作をしながら立ち上がる。
チラリと髪の隙間から見える耳は真っ赤になっていた。
そして、彼女の目線はこちらに向く。
その目は辱めを受けて、どう復讐してやろうかと画策しているような鋭い目だった。
――これは嫌な予感。




