第五十一話
リアが気を利かせて手燭を持ってきていたため、その明かりを頼りに坂を上ったり、下ったりとして、ベランダから出てすでに夜道を三十分ほど歩いていた。
それでも夜の雑木林を行くには十分な光量とは言えず、体をくっつけて、互いにぶつかりながらフラフラと進む。
きっと、遠くから見たら火の玉が雑木林を彷徨っているようにも見えただろう。
ベランダに侵入した何者かが怖がって逃げてくれれば良いのだが。
そんな話をリアにしたら、彼女は妖しく笑ってこう言った。
「確かリンダ地方にそんな話がありましたね。遠くから見たろうそくの火を幽霊だと勘違いするやつ」
「初耳だ」
「知らずに言ってたんですか? でも、そのお話には続きがあって、後日、もう一度訪れてみたら本当に幽霊に会ったとか…… ロマンティックなお話ですね」
「どこがだ」
「幽霊でもなんでも死んだ人間に会えるんですよ? 悪いことじゃないと思いませんか」
そう言われてみれば、確かに、一理ある。
幽霊と言われれば、大抵自分とは無関係な他人を思い浮かべるけれど、家族とか故郷の仲間達なら、化けて出ても大歓迎だ。
「リアは誰か会いたい人がいるのか」
「いません」
きっぱりと断言した。
「だって、一度も顔を見たことがない父親が出てきても怖いだけですし。それに――」
行く手を遮るようにリアはフィレンの正面に躍り出る。
「私には目の前に王子様がいますから」
下からのぞき込む彼女の目は光に満ちていて奇麗だった。
「……」
「聞いてますか?」
リアが少し背伸びをして顔を近づける。
呼吸をしたら息が当たってしまうほどの距離。
つい、出会ったころを思い出した。
こうやって、近づいてきて、そして……。
彼女も同じことを思い出したのか、すぐに背を向けた。
背を向けるまでの一瞬の間にリアの顔は赤く火照っていた――ように見えた。
フィレンまで暑さを感じた。
真夏というわけでもあるまいが、きっと妖精の、いや幽霊のしわざだろう。
そう思うことにした。




