第四十九話
フィレンがはためくカーテンをめくり上げる。
ベランダには誰もいなかった。
そのままの勢いでベランダに出て、右、左と人が隠れられそうな場所を探す。
が、目の前に自然が広がっているというのに、色を補填するように置いてある鉢植えの花があるくらいで、子供ですらも身を隠す場所は無かった。
とは言え、今夜は月に雲がかかっていて、視界が一段と暗い。
真っ黒なマントでも羽織っていたら見落とす恐れもある。
念のため広いベランダを巡回してみる。
少し湿った風が首元から全身を這う。
ベランダから雑木林を見ると、逆に暗闇からこちらが見られているようで不気味に感じる。
外を眺めているせいで、足元がおろそかだったらしく、なにかにぶつかった。
闇に溶け込んでいて一瞬認識ができなかったそれは、何も植えられていない鉢だった。
ふと疑問に思い、振り返って、花が植わっている鉢植えを見ると、すぐにぶつかった原因が判明した。
鉢植えの色だ。
花が咲いている方は白で、こちらは黒だった。
――そりゃあぶつかるよな。
一人でに納得していると、後ろから声がした。
部屋はロウソクの火で照らされている。
「ムーンナイト様。どうかしましたか」
「ああ、ベランダに人影が見えたような気がして、調べていたんだ」
それを聞いたリアは、ヨタヨタと近づいてきてフィレンの腕にしがみついた。
「怖いです……。幽霊でしょうか」
こちらを上目遣いに見る。
が、あまり感情が籠もっていない。
「リア、怖がっているのにその幽霊が出たっていう暗いベランダに飛び出てくる人はいないんじゃないか?」
リアは、うっと痛いところを突かれたというようなうめき声を出したが、「ここにいるじゃないですか。ああ怖い」とより一層強くしがみついた。
リアと触れている部分は暖炉の前のように温かい。
「まあ、いいや。今夜は解散としよう。ほら、離れて」
「ええ、まだ夜更けには早いです!」と駄々をこねるリア。
続けざまに背伸びをして耳元で囁いた。
「実はあの雑木林には代々の秘密が眠るとされているんですよ。行ってみませんか? ゆ・う・れ・い・探・し」
ノリノリだった。
それはもう怖い怖いと言っておきながら実は一番好きなんですと言いそうなくらいに。




