第四十六話
商店街の喧噪が遠くから聞こえる。
リアは膝を抱えて暗い路地でうずくまっていた。
大通りを歩く人々は誰一人路地には目を向けない。
自身の赤い髪が視界を遮る。
――誰も私なんか気にしていないんだ。
今に始まったことではない。
母親もその母親もまた王族に仕える使用人だったリアは子供の頃から言われていたことがある。
『使用人は目立ってはいけない。褒められてはいけない』
――私が使用人である意味はなんだろう。別の人じゃ駄目な理由があるのだろうか。
分かっていた。
そんなのはない。
私である必要はない。
リアは呟いた。
「王子様に会いたい」
私を助けてくれた私だけの王子様に。
数ヶ月前、リアはフードを深く被り、目立たない格好をして、商店街に買い出しに来ていた。
そのような格好をするのは、小柄な女が金貨を持っていることが知られると、盗賊に狙われるからだ。
勿論、フードを被っていても、大金を所持していることがバレれば同じことだから、買い物にはいつも最新の注意を払っている。
が、どうやらそいつは客ではなく、店に目星を付けていたらしかった。
王子の衣服を購入して店を出た後、男が後をついてくることに気づいた。
路地に曲がったところで、リアは駆け出し、男との距離を測ろうと振り返ったとき、それが目に入った。
コートを羽織った男の右手に握られているリボルバーが。
動揺した。
足元が疎かになりゴミに躓いた。
立とうとしても足に力が入らない。
そんなとき。
私を庇うように腕を広げた男が現れた。
上品な紫の髪だった。
男は言う。
「もう、大丈夫。立ち上がって」
しかし、足は震えたまま動けなかった。
「立てない。どうしよう……」
「もう、一人じゃない。僕を信じて。立てるはずだよ」
足に力を込める。
気づくと商店街まで走っていた。
男の顔を見ることも、お礼も出来なかった。
今、私はその路地で一人、膝を抱えている。
また王子様が現れるような気がして、逃げ込んできてしまった。
フィレンはゆっくりとリアの元まで歩みを進め、前で片膝をつく。
彼女の肩は僅かに震えていた。
「リア……」
リアは顔を上げることなく、呟いた。
「ビレーヌ様、申し訳ございません。先にご帰宅ください」
「……違うよ。私はビレーヌじゃない」




