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第四十五話

 男に腕を引っ張られ、路地に入ると、そのまま羽交い締めされて逃げられなくされた。


 もう一人の男は腕を鳴らしながら宣戦布告する。


「お前には腹を蹴られた借りがあるからな。一発入れさせてもらうぜ」


「あれは返さなくていいよ。君たちの顔に免じてね」


「調子に乗るのも今のうちだぜ。俺は誰よりも強い腕力があるから、一発でノックアウトしちまうからな」


「誰よりも? 今、私を羽交い締めにしている彼よりも?」


 男達は顔を見合わせた。


「あったり前だろ!」


 目の前の男が言う。


「ざけんな! 俺の方が強いだろ」


 羽交い締めにしていた男がフィレンを押しのけて言い返す。


 二人はそれぞれ向かい合ってメンチを切り始めた。


 ――しめしめ、今のうちに立ち去ろう。


 馬鹿な二人組にバレないよう後退するが、靴が散らばったゴミを踏みつけ音を立てた。


 男がこちらに振り向き、叫ぶ。


「おい! お前。女! こっちにきてレフェリーしろ」


「え?」


 ――こいつら馬鹿だ。


 こんなくだらない喧嘩に付き合ってられないが、逃げる手段もない。


 一刻も早くリアを探しに行きたいのに。


 そう思ったとき、男達の背後から声がした。


「それなら、僕に任せてくれ」


 腰に手を当て、男達の視線を集めるその男はバーツだった。


「誰だお前」


 片方の男が当然の疑問を口にする。


「僕は、さすらいのレフェリーさ。最近試合がなくて腕が鈍ってきていたところに君たち戦士の声が聞こえたものだから、来たのさ。今なら銅貨三枚でこの試合を受け持ってあげるよ」


 適当すぎる設定だったが、バーツの巧みな話術に惑わされた男達は、「銅貨三枚か……。どうにか二枚にならないか」と値段交渉をし始めた。


 バーツがこちらに目配せする。


 ――ありがとう。恩に着る。


 心の中で礼を言って、今度こそ足元に注意してその場を離れた。



 迂回して、商店と人がごった返す道に戻り、リアの捜索を続ける。


 目を左右に、ときに商店の裏を、ときに路地をのぞき込みながら、フィレンは思った。


 バーツはいつも私を見ていて、ピンチのときに助けてくれる。

 喫茶店を経営しているニファだって、いつ訪ねても相談を親身に聞いてくれる。

 私を支えてくれる。


 もし、同じ故郷の仲間達――バーツやニファ――がいなかったら自分はどうしていただろう。


 ここまで故郷のために頑張れていただろうか。


 努力をしても、成果を上げても褒められないとしたら、誰の目にも届いていないとしたら、私はそれでも頑張れるだろうか。


 リアは使用人として何をしても当たり前だとされて、自分が必要とされているのかわからなくなっている。

 本当はもっと自分を出したいのに、押さえ込まれている。


 ――そんなリアに私はどう声をかけるべきだろうか。


 ――そんな権利が私にあるのだろうか。


 思考が整理される暇もなく、フィレンの足が止まる。


 路地に向ける視線の先には、暗闇でうずくまる赤髪の少女がいた。

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