第四十四話
帰り道。
小高い丘を下って、商店街から一つ外れた道を歩いていると意外な人達に出会った。
その男達は全員、ウィンシャード騎士養成学校の制服を着ている。
先頭の男は薄い金髪で後ろに二人の男を携えていた。
その男が言う。
「ビレーヌさん! こんなところで出会うとは」
そう第六王子のサリトールだ。
彼は跪き、フィレンの手の甲に口づけをすると、顔を上げ続ける。
「お一人でお買い物ですか」
当然、リアと一緒なので二人で――が正解だが、王子にはリアが見えていないようだった。
「ええ、リアと親睦を深めていたところ」
そう言うと、ようやくフィレンの斜め後ろに視線を動かし、「ああ、気づかなかった。すまなかったな」とだけ言った。
フィレンが訊く。
「後ろの方々は?」
サリトールの後ろにバーツとウィルがいる。
リアが言っていたように王子が自ら商店街に来ることはないだろうから、この二人の用事に付き合っているというところか。
にしても、そこまでの間柄だったとは知らなかった。
ビレーヌとして会うのは初めて――ウィルとは中庭で顔を合わせているが――なので形式的に挨拶をすると、二人は自己紹介をした。
バーツの手にはフィレンが仕込んだカラスの小物があったので、無事回収できたようだ。
リアも同様に挨拶を済ませると、サリトールが言った。
「そちらの髪留め、華やかで美しいですね。綺麗なビレーヌさんにお似合いです」
フィレンはスカートの裾をつまみ、膝を曲げ、上品に礼を言った。
「ありがとう、サリトール」
そのフランクな言い方にウィルとバーツは驚いた顔をしている。
と、さっきまで使用人の性か、フィレンの斜め後ろに陣取っていたリアが、しれっとフィレンの真横に並んでいた。
――髪留めを王子に褒めて欲しいのだろうか。
リアと出会った当初は、気が強く、自分の言いたいことをハッキリ言うタイプだと思っていたが、見当違いだったようだ。
リアは自分の本当に言いたい意見をひた隠しにしてしまう年相応の乙女なのだ。
その様子を見た王子は、しかし、こう言った。
「リアは何も買わなかったのかい」
リアがフラついて後ずさった――ように見えた。
「……はい。私、夕食の準備がありましたので、お先に失礼いたします」
消え入りそうな声で、捲し立てると、王子の横を抜けて商店街の方へ走り去っていった。
フィレンの目には、リアの目尻に小さな水の粒が浮いているように見えた。
「我が使用人が失礼した。ビレーヌ様、夕飯には時間があります。私達と夜の出店を回るのはいかがでしょう。きっと、夜空で浮かぶ人々の明かりは美しいものでしょう」
フィレンはサリトールの台詞を遮ってしまいそうな気持ちだったが、なんとか耐えきり、こう言った。
「遠慮します。では、私もこれで」
早足で王子の横を通り、商店街へ入る。
月が出て夜光虫がやって来たかのごとく、通りには人が溢れている。
まだ、遠くまで行っていないはずだ。
人と人の間を通り抜け、必死に頭を振るフィレンの前に人が現れ、ぶつかりそうになりながら、身をよじり避けた――はずだったが、両肩を掴まれ足を止めさせられた。
見上げると、昼間にナンパしてきた二人組の男だった。
「よお、今度は本当に迷子みてえだな」




