第四十二話
串を使った屋台の食べ物や、新鮮なフルーツ、どんなときに穿くのか分からない形状の靴、路上でパフォーマンスしている男性――と、様々なものを見て、嗅いで、味わって、気づくと商店街に着いたときには上り調子だった太陽は、段々と沈み始めていた。
今日一日でリアともずいぶん打ち解けたような気がする。
――だが、友達になるには何かが足らないな。
そう思ったフィレンは近くのアクセサリーショップに駆け込んだ。
テーブルに並べられたアクセサリーから、二つを指差してリアに尋ねる。
「どちらの髪留めの方が好みかしら」
二つの髪留めは同じ熊の形をしていた。
違いは作られている素材だけだ。片方は様々な宝石が埋め込まれていて、光を反射し、キラキラと輝いていて派手さがある。
もう片方は鉄で作られているのか、鈍い銀色をしていた――ハッキリ言って地味だった。
リアは派手な方に手を伸ばしたかと思ったが、ピタリと空中で停止し、そして地味な方を指差した。
「こっちです」
「では、私は派手な方を頂きますわ」
店主が答えた。
「はい。毎度あり!」
それから、少ししてのことだった。
フィレン達の前に大きな体の男達二人組が現れた。
「お嬢ちゃんたち。どうしたの? 迷子? 迷子かなあ。」
男がリアに手を伸ばす。
リアは怖じけずいて動けずにいる。
パシッ、と音を立てるほどの強さでフィレンは男の手をはたき落とし、前に出る。
「君たちの方が迷子じゃないのか。どうも路頭に迷いそうな顔をしているが、こんなところに仕事は落ちていないよ」
「ああ! なんだてめえ! 喧嘩売ってんのか」
二人の巨漢はフィレンの視界を埋め尽くす。
――よし、ここまで来ればリアは視界に入っていないはずだ。
フィレンは手で「逃げろ」と合図をした。
が、その手をリアが掴んだ。柔らかく、暖かい熱が手のひらから伝わる――とそのまま引っ張られる。フィレンは半身になりながら、男を蹴り上げ、足先は相手の腹部にめり込む。
男の短い悲鳴と、もう片方が蹴られた男の介護をしようとしているのを横目に、フィレンは走った。
走って、路地を抜けて、でも遠くから男の声が聞こえて、さらに走って。
やっと一呼吸を置けた場所は、小高い丘だった。
冷えた空気が喉をちりちりと痛めつける。
二人は力なくベンチに腰下ろす。
「いやあ、危なかったね」
フィレンが空を見上げながら呟く。
「うん」
リアはそれだけ答えると、なんとか呼吸を整えるのに専念した。
「……あなた、案外良いやつですね」
リアが言った。
「そうだろ。こう見えても紳士だから」と、空気を取り込むことに必死になるあまり、つい、今の自分がビレーヌという令嬢であったことを忘れて男っぽい返事をしてしまった。
「あ、いや――」と訂正するのを遮って、赤髪がこちらを覗き込む。
汗にぬれた髪から胸元へとしずくが落ちる。
「それが本当のあなた?」
「ええと……」
「そっちの方が良いと思います」
彼女は力強く言い切った。
そして、言葉を続ける。
「あなたは、王子とお近づきになりたい……のですか」
「そうだ」
「どうして?」
「それは……言えない。君こそ、なぜそこまで私の邪魔をするんだ」
リアはベンチに座り直し、前を向くと、
「あれは四年ほど前のことです」と静かに語りだした。




