第四十一話
店の小物は動物をかたどった置物になっている。置物の裏には隠し扉がついており、中の小さな空間には、指輪や宝石のような小さなアクセサリーを入れておけるという優れものだ。
フィレンは翼を広げたカラスの置物を手に取ると、リアに気づかれないよう、裏側に一片の紙切れを忍ばせた。
ローブを羽織っていて顔が見えない店主にその置物を手渡して言う。
「もう少し可愛いらしい動物はいませんの?」
並べられている小物はどれもリアルな形をしており、リアのような少女には似つかわしくない。
フィレンだって好みではなかった。
店主はカラスの置物を店の裏に仕舞うと、代わりに小さな熊の人形を取り出した。
熊は等身が三頭身ほどしかなく、顔も簡略化されていて子供向けの姿をしていた。
――あまりにも子供向けだった。
「流石にそれは可愛い過ぎる」と自らの注文を取り下げようとしたとき、リアが人形を両手で受け取り、「わあ、可愛い!」と目を輝かせた。
それを見た店主は調子に乗って、他にもニワトリの人形や、カエルの人魚を取り出したかと思うと、毎回、リアが良いリアクションをするものだから、挙げ句の果てには人形劇まで始めた。
子供だましの劇を最後まで観たフィレン達だったが、リアは熊の人形を購入しなかった。
「買わなくて良かったのかしら?」
「はい。魅力的でしたけども、使用人の部屋は狭いですから。置物があっては邪魔になるだけですので」
先ほどまで笑顔で人形劇を観ていたとは思えないくらい静かな声だった。まるで、殻に閉じこもった雛のような、そんなイメージが頭に浮かんだ。
フィレンがこの商店街に来た理由はバーツに伝言を残すためだ。
バーツと立てた計画では、フィレンが王子に連れ去られるなんてことは想定外だった。いや、むしろ、そんなに上手くいくとは思っていなかった。
――想像すらしなかった。
まさか、王城に入れてしまうだなんて。
第六王子からしてみれば、たかが一人の令嬢だ――それも身元不明の。
少しばかり特殊な出会い方だったとは言え、特別扱いはしないだろうという考えた。
フィレン達は計画では、偶然を装った出会いを何度も起こし、王子にフィレンの存在を徐々に意識させる予定だった。
――やはり、上手くいき過ぎている。
その裏にはフィレンが知らない王子の秘密があるような気がしてならない。
それもフィレンに関連した秘密が、である。
だから、これまで判明した王子の情報や、今のフィレンの状況をバーツに知らせる必要があったのだ
が、フィレンがいる場所はなにせ王城である。
一般人が入れる隙も隙間もない。
と、そんなときのために、事前に連絡手段を用意しておいて正解だった。
それが、先ほどフィレンが触った小物である。
小物の底に手紙を隠しておいて、それを店主に仲介してもらい、バーツに渡すという手はずであり、それは半分成功した。
あとは、バーツが受け取るだけなので、商店街に来た目的は達成したと言える。
だから、目的を達成した今、王城に戻っても良かったのだが――フィレンはどうしてか、帰る気にはならなかった。




