第四話
「やっと、今日の授業全部終わったな」
緑髪のウィルが大きく伸びをして体をほぐす。
朝日を見たかと思えば、次に見たときは夕暮れだ。
ウィンシャード騎士養成学校では、全員が必須で受ける授業と、個人が好みで選択できる授業がある。
フィレンはできる限り多くの人と接点を持つために、上限ギリギリまで授業を登録していた。
もともと、知識欲は高い方で、興味の惹かれる講座は多々あったが、あくまでこの学校には人脈を広げに、現国王に近づくために入学した。興味のある講座ばかりを選んでいたら、同じような人ばかりと交流することになるので、ランダムに選択した。
それが裏目に出た。
興味の無い分野を興味の無い中年男が、世にもつまらない話し方で分かりにくい解説をする。
この世の地獄かと思える時間が午後の間ずっと続いて、ようやく解放された。
しかし、仕事がまだ残っている。
「ウィル。相談したいことがある。人が少ないところに行きたいのだが、僕の部屋に来てくれるか?」
「なんだぁ急に。別に良いけど、部屋だとバーツもいるんじゃねえのか?」
「バーツにはどこか外で待っていてもらうよ」
ウィルは顎に手を当て、考えるようにした後、別の提案をした。
「それじゃあ、俺がたまに行くお気に入りの場所に連れてってやるよ」
この学校は街の中心部という好立地にもかかわらず、内部に公園や、ショッピング施設なんかも入っていて、もはやどこからどこまでが敷地なのかわからないほど広い。
それは校舎も同様で、聞いたこともない名前の教室がごまんとある。
必然、あまり使われない教室や、屋上といった空きスペースも沢山あり、授業に疲れ切った生徒たちのくつろぎスポットとなっている。
ウィルのお気に入りの場所は、地下倉庫の隣にある、薄暗い物置教室だった。
どうぞ、座ってくれ、とまるで家主のような態度でフィレンを招くと、ドアを閉じ、自らも椅子に腰下ろした。
「良い場所だろ? 日中でもほとんど人が来ないから、落ち着けるんだ」
「意外だ。四六時中誰かと一緒にいるものだと」
「まさか! 俺は元々人と話すタイプじゃないんだぜ」
「へぇ。今とは違うね」
「……俺の親は探偵なんだけどさ、ほら、探偵って浮気調査とか人の荒事って言うのかな。嫌な部分を目にすることが多くてさ。いつからだろうな。あんまり人を信用できなくなっていて、他人と心の距離を取るようになっていたんだ。けど、心の距離を取ると、不思議なことに誰とでもカジュアルに話せるようになったんだ」
ウィルは探偵の仕事で人の暗い部分を、理解のできない部分を見てしまったのだろう。
気持ちは分かる。
私も故郷の人間と、その他の人間でどこか境界線を引いている。
見下しているのではない。尊敬している訳でもない。
精神的な、奥深くの根本的な考えや価値観が違っていて、理解し合えるとは思えないのだ。
「そうか。……僕に話して良かったのか? 人と話さないタイプの人間はパーソナルな部分に踏み込まれるのが嫌いなものだと思うのだが」
「……それは。……俺が君の秘密を知ったから」
「――それって」
「君、女の子だろ?」
「……なにいってんだ。僕は――」
「鼻がきくんだ。その人と話していると、人となりというか、どんな人間なんだろうとか、どんな過去があるかが何となく分かる。しぐさや体格から無意識に情報を集めているのかもしれない。君は女の子としか思えない」
「それじゃあ、今朝、体に触れたからじゃなく、それよりも前から気づいていたと?」
「ああ、そうだ」
そっとカバンに手を入れ、中を探る。
指先が冷たい金属に触れ、それのグリップを慎重に握る。
以前、片腕の男が残していったリボルバー。
独自のルートで仕入れた弾はすでに充填済みだ。
緑髪は思い出したように首を横に振る。
「ああ、別に人に言いふらしたりはしてないよ。探偵は口が堅いから」
「そうか、それはありがたいよ。ウィル、窓の外に人影が見えた気がするんだけど、確認してくれるか?」
分かった、とウィルが席を立ち、窓から廊下を覗く。
フィレンは音を立てないように照準を胸の真ん中。
心臓を狙って銃を構える。
バレた以上やるしかない。
今は誰にも言っていなくても、今後言わない保証がない。
――悪いな、ウィル。私も同じくらい君を、他人を信用していないんだ。
そういう意味では、似たもの同士なのかもしれない。
――さよなら。ウィル。




