第三十三話
一目見た印象は小さいだった。
フィレンは平均的な身長だが、そのフィレンよりも一回り小柄で、赤いミディアムヘアの女の子だ。
前髪の片方だけ胸上まで伸びていた。
そこまで目で辿ってようやく服装に気づいた。
この城で幾度もすれ違った女性と同じ服を着ている。
使用人服だ。
「あの方には好きな人がいます。諦めてください」
淡々と話す割に幼さの残る声だった。
子供が大人だと思われようとコーヒーを口にして美味しいと見栄を張っているようなそんな声だった。
「あの方?」
はぐらかしたつもりは無いのだが、ムッとしたように一歩前に踏み出してくる。
「サリトール様です。優しさに漬け込んで城に入り込んだようですが、あなたはあの方の眼中にも入らないです。この偽物の髪を使って気を引こうとしても、すぐにあなたの正体を見破るに違いないです」
少女の手には、フィレンのウィッグがあった。
フィレンは一歩踏み出し、あと少しでウィッグが手に届く位置まで近づく。
赤髪はフィレンの目を睨めつけるように見据えているが、全く迫力がない。その姿は子猫が威嚇しているように見えるものだから、先ほどの攻撃的な発言も可愛らしくさえ思えた。
逆にどこか第六王子に気がありそうなこの少女をからかいたくなる。
「でも、私は城に連れて行ってなんて言ってないのに、王子は私を大事そうに抱えてここまで連れてきてくれたのよ。かつて、そのような方はいらしたの?」
ぐぬぬ、と聞こえてきそうなくらい少女は口を歪めた。
さらに追い打ちをかけるべく、続ける。
「でも、不安なの。一緒に舞踏会に行くことになって、私上手に踊れるかしら」
もう一度、少女の目を覗き込むと、うっすらと潤っているように見えた。
やり過ぎた。
これじゃあ、邪魔になり得る女性なら子供だろうと関係なく排除する悪逆令嬢になってしまう。
バーツと話して決めたいたいけで哀れな令嬢という設定とかけ離れてしまわないよう修正しなければ。
互いに考えを巡らし、見つめ合う形で固まる両者。
だが、先に動いたのは赤髪少女だった。
背伸びをするようにかかとを上げると、首を伸ばし……そして、フィレンの口に自身の口を重ねた。
ほんの一瞬だった。柔らかな感覚が唇に当たった。
「女好きと思われて嫌われろ」
少女はそう呟くと、そっぽを向き、走り去った。
角に消えていく背中を、地面に座り込んだフィレンは呆然と見送った。




