第三十二話
油断した。
使用人というものを甘く見ていた。
普段からシャワーは短い方で、湯船に浸かることもほとんどないフィレンだったが、今日ばかりは豪華な風呂場に惑わされてしまった。
それでも、早々に切り上げて出てきたというのに、その一瞬の間に、フィレンが着てきたものをウィッグも含めて余すこと無く持って行き、代わりに白のワンピースが一着だけ置いていったのだ。
余すこと無く?
脱衣所のかごを探る。
備え付けのバスタオルの他には、やはり、ワンピース一着だけが入っていた。
下着すらもなかった。
王族は下着を身につけないのだろうか。
体から滴る水をタオルで押さえながら、床を見渡すが、どこにも落ちてもいない。
まいったな。
このまま第六王子に会うのはまずい。
元より城を探索して、王族の隠し通路やら、秘密の部屋やらを見つけてやろうかと思っていたが、そうも言っていられなくなった。
ウィッグや脱いだ服はどこにあるのだろうか。
ドレスには土が付いていたから、衣服は洗濯ルームにある可能性が高いが、ウィッグもそこにあるだろうか。
そもそも、ウィッグごと持って行く理由が分からない。
腕を組んでみても、暖かいお湯にほだされた脳は働こうとしなかった。
ともかく探しに行こう。
そう決心し、フィレンは体を一通り拭くと、ワンピースを着た。
まだ熱を放出している肌にワンピースの生地がへばりついて気色が悪い。
頭にはバスタオルを巻き付け、地毛である紫色の髪の毛が見えないように隠す。
これで、もし王子と遭遇しても変装していたことがすぐにはバレないだろう。
といっても、頭にバスタオルを巻いている令嬢なんて、聞いたことがないから、遭わない方が良いだろうが……。
脱衣所のドアをゆっくりと開け、周囲を見回す。
脱衣所は廊下の真ん中にあるため、左右に道が分かれている。
フィレンは王子に案内され、左側からやってきた。
きっと、この辺りは客人をもてなすための部屋が密集しているはずだ。
王子には、脱衣所に来る途中の部屋が客室だから、シャワーを浴びたらそこで待っているよう言われた。
となると、客人が通る動線上に洗濯ルームなどの、裏方の仕事部屋はないだろう。
廊下に出ると、ヒンヤリした空気が肌を包み込んだ。
足音をたてないよう、右へ進む。
曲がり角まで進んだとき、コツコツと曲がった先の方から足音がした。
まずい。
誰かがこっちに向かってくる。
風呂を出たばかりなのに、汗が背中を這う。
引き返そうと、後ろを向くと、目の前に女が立っていた。




