第三十四話
地面の冷たさを感じていると、背後に人の気配がした。
「大丈夫か」
第六王子がフィレンの身を案じ、手を差し出す。
手を借りて立ち上がる。
「ええ。なんでもありません」
王子はフィレンよりも一回り大きいので、見上げる格好になる。
思わず見つめ合う形になったが、王子はすぐに視線を下げた。が、またすぐに次は空中を見るようにして言った。
「も、申し訳ない。まだ湯から上がったばかりでしたか。思いのほか早く食事の準備ができそうだったので、一緒にダイニングに向かおうと思ったのですが……、ええと、食事は部屋まで持ってこさせます。……し、失礼した」
早口で説明し、碌に目も合わせず、王子は去って行った。
サリトール王子は女遊びが趣味だと聞いていたが、あの様子だとまともに女性と話したことがあるのかすら怪しい。
もしくは、私のことが苦手なのか。
どちらにせよ、やるべきことは変わらない。王子の好感度を上げ、親密な関係になることだ。
用意された部屋は中央に天蓋付きのベッドがあり、装飾されて壁際に机と椅子があった。ベランダに繋がる大きな窓は太陽の光を目一杯吸い込んで、部屋の中を余すこと無く照らしている。
ベッドに腰を下ろそうと近づくと、予期しない物体が中央に鎮座していた。
金色の飾りかと思ったそれは、フィレンの金髪ウィッグだった。
赤髪の女が手に持っていたはずだったので、フィレンにキスをして、逃走した直後、この部屋に置いていったのだろう。
しかし、なぜあんなことを……。
たしか、「嫌われろ」とか言っていたはずだ。
私からは見えなかったが、もしあのとき既に第六王子が背後にいたなら、口づけの現場が見られていたことになる。
それを見られていたとして、どうして嫌われることになるのだろう。
だが、一つハッキリしていることは、あの赤髪は私を邪険にしているということだ。
これから、王子と仲を深めるには、あの女が邪魔になりそうだ。
いいだろう。
喧嘩を売るというのなら、買ってやろうじゃないか。
フィレンはウィッグをつけ、部屋を出た。




