第三十話
女装フィレンと第六王子サリトールが出会ってから数日が経った。
その間もサリトールに接触しようとしたが、王子とはこうも肩苦しいものかと思うほど、学校と寮を行き来するだけだった。
王子の住む寮は特別な棟にあり、ウィンシャードの学生の中でもごく一部のみが入ることができる。
当然フィレン達はその中に含まれていない。
寮といっても、もはや城と言った方が正しいと思えるほど優雅な建物のため、ウィンシャード城と呼ばれている。
入学当初、騎士学校という王族御用達の学校で寮に住めたことに、少しは格式高い暮らしに近づいたと思ったフィレンだったが、初めてその城を見て、格の違いを思い知らされた。
学校と寮の行き来には王族用の車が使われるため、学校外でフィレンが話しかけるには、学校または寮を出て車に乗る一瞬の間しかない。
無論、学校の中でフィレンが女装して王と会話するのは、別の学生にバレるリスクが高いので二度は行えない。
そんなわけで、早朝に寮を脱出したフィレンとバーツは城門の脇に隠れて、第六王子が出てくるのを待っていた。
バーツがリンゴを囓りながら言う。
「そろそろ出てくるはずだけど」
フィレンは横目でバーツを見ながら相づちを打つ。
「そうだね。で、そのリンゴ僕にもくれない?」
「駄目だよ。ドレスを汚したらどうするのさ。それに、どこにリンゴに齧りつく令嬢がいるんだ」
フィレンは紫色のドレスを着て、金髪ロングのウィッグでまたもや令嬢に変装している。
「それを言うなら、以前と同じ格好をしている令嬢ってのもどうなのさ」
「ウチは貧乏な令嬢だから二着もドレスを買う余裕はないんだよ」
はあ、とため息を漏らした音に、門が開く音が重なった。
来た。
金髪というか、ベージュに近い色に青い目の落ちこぼれ第六王子だ。
バーツがいくつかのリンゴをフィレンの足元に転がし、フィレンがその場に座り、声を上げる。
「きゃあ!」
声に気づいたサリトールは顔を下に向けて座り込むフィレンに近づき、リンゴを拾い上げながら手を差し伸べる。
「お嬢さん大丈夫かい」
「え、ええ。リンゴが急に転がってきて足を挫いてしまったみたい」
と、フィレンは顔を上げ、驚いた表情を作り上げる。
「あら、あなた。いつぞやの中庭でお会いした……」
王子はフィレンの顔を見るなり、一瞬固まるが、フィレンのドレスに付いていた土汚れに気づくと、それを手で払った。
「君は……。まさか、家を追い出されたのか。なんてひどい」
早朝からの張り込みのせいで付いた汚れであったが、王子が勘違いをした。
フィレンは機を逃すまいと流れに乗り、両手で顔を覆う。
「ええ! お父上が、舞踏会に行く相手もいないとは、末代までの恥だとおっしゃって、私を勘当しましたの。行く当ても、相手もおらず、恥ずかしながらふらふらと彷徨っておりました」
「それはいけない。さあ、こちらへ」と、王子はフィレンを抱えると車へ乗り込んだ。




