第二十九話
夕焼けに染まった街をドレス姿のフィレンとタキシード姿のバーツと学生服のウィルが肩を落として歩いている。
いくら国の中心街といってもドレスを着て歩く姿は注目を浴びるだろうと思っていたが、今日もどこかでパーティがあるのか、ドレスを着た体躯の大きな女性が多く、フィレン達は目立つことなく目的地へと着いた。
店に入り、その店の女性店主に恋愛相談を持ちかけると、店主はこう言った。
「一目惚れね」
一瞬なんのことかわからず、フィレンが確認をする。
「王子が? 僕に?」
「そう。第六王子の、ええと……」
ウィルが補う。
「サリトール・ミッドガルド」
「そう、サリトール様は金髪ロングのフィレンに一目惚れしたものの、自身は生粋の金髪ロング嫌いだったから気が動転したのね」
サリトールは確かに金髪ロングのフィレンを見て固まっていた。
話しかけるとすぐにどこかへ行ってしまったのも気が動転していたからだろう。
だが、ニファが言ったように、一目惚れした女性が、嫌いな金髪ロングだったからというのは明確におかしな点がある。
ウィルがフィレンの金髪ロングを指摘したとき、私はバッサリと切り落とすようウィルに言った。
それは王子にも聞こえていたはずだ。
にもかかわらず、王子はわざわざ止めに入った。
金髪ロングが嫌いなら、どうして散髪を止めたのだろう?
それぞれ思うところがあったのか、カウンターの三人がじっくり考え込んだ後、バーツは別のことが気になっていたらしくニファに訊く。
「で、その服装は何かの催し? 老紳士みたいな格好だけど」
「あれ? 知らなかったの? 今日は令嬢研究会が主催で男女逆衣装パーティなのよ。街中にドレスのやたらガタイの良い女性がいなかった? あれ、全員男よ。それにあやかってウチでも変装イベントをしているのよ」
「へえ、だからか」とバーツが頷いた。
ということは、街の人からしてみれば、私もそのイベントの参加者だと思われたわけかと、ドレス姿でも注目を浴びなかった理由に納得がいった。
にしても、知らず知らずの内にそんな風変わりなイベントに巻き込まれていたとは、恐ろしい。
店内を見回すと、まだ変装をしている人は少なく、女装――ではないのだが――をしているのはフィレンだけだった。
もし、常連の男達が女装をしてやって来ると想像すると身の毛がよだつ。
今のうちに帰るとしよう。
そう思って椅子から腰を浮かしかけたとき、ドアのベルが鳴り、巨漢の令嬢が二人入ってきた。
どちらも黄色いドレスを着ていて、茶色のウィッグが厳つい顔に乗っかっている。
そして、ご丁寧にも胸も作られており、華奢な男性が真似れば、数人は騙せるほどのクオリティだった。
その巨漢がニファに挨拶し、すぐ隣のカウンターに座った。
「あら、フィレンもいらしたのね。どう、このドレス」と巨漢は似合わない口調で自慢をする。
嫌なことに、近くで見ても、髪の毛は本物のようだし、胸もドレスに覆われているとはいえ、適当な詰め物ではないようだった。
と、凝視していたことに気づき、巨漢は言った。
「胸、触ってみる?」
思春期の男子学生なら、舞い踊りそうな台詞だが、声までは間違っても女性に聞こえない。若干テンションが下がりつつ、手を伸ばす。
むに、という感覚が手に伝わる。柔らかくもあり、弾力もある。
これは……。
ゴムのような素材だろうか?
本物に比べると、少し堅さを感じた。
しかし、この行動は安直だった。
傍目から見ればどちらも女装しているわけで、片方が胸の感触を確かめたということは、もう片方も同じようにしてもおかしくない。というか、自然な流れだった。
巨漢が高い声で言う。
「次は私の番ね」
「うわっ、やめろ!」
反射的に胸を隠し、椅子から飛び降りる。
「おいおい、フィレンが胸に何をいれてるのか、私気になるってのに」
「……」
フィレンは返す言葉もない。
すると、ニファがおもむろにカウンターから出てくる。
「じゃあ、私が確かめてあげるわ」
手をわきわきと蠢かしながら近づいてくる。
「や、やめろぉ」
フィレンは力なく言うと、店内を逃げ惑う。
その逃亡劇はニファに捕まるまで続いた。




