第二十六話
「踊り子の会ってどこにあるだろうか」
「踊り子?」
ウィルが見上げるようにして聞き返した。
王子は抱えていた紙の束を机に置き、一枚を手に取ると、三人に見えるように掲げた。
紙には「満月の仮面舞踏会」という題で、舞踏会への参加を募集する旨と、「応募は踊り子の会まで」と応募先が記載されている。
踊り子の会というのは、この学校が許可している同好会の名前だ。
ウィンシャード騎士養成学校は学生の交流を大切にしており、勉学や武術以外の活動も推奨されている。
また、王国の最も中心に位置する学校なだけあって、同好会と言いつつも大規模な同好会では、メンバーの数が三桁にものぼるらしい。
週末には同好会主催でイベントも開催され、大抵は学生だけでなく、街の人々も参加するほどの大きなイベントとなっている。
件の踊り子の会は中規模の同好会であるが、月に一度の「満月舞踏会」は街の外からも参加者が来るほどの人気イベントだ。
しかし、それをこの王子は知らないらしい。
「踊り子の会ってところに、この紙束を届けたいのだけれど、場所を知り得なくて。ご存知ならば教えていただけないだろうか」
王子の思わぬ丁寧な口ぶりに、ウィルが目を丸くした後、フィレン達に目配せをする。
フィレン達は、横並びに座っていて、並びは王子の立つ側から、ウィル、バーツ、フィレンとなっている。
女装して王子を落とさなければいけないフィレンとしては、今、顔を目視されるわけにはいかない。
フィレンはバーツの体に隠れながら、頷く。
ウィルが王子へと向き直り、その場に立ち上がる。
「私がご案内しましょう」
――難しいことになった。
ウィルは紙束を抱える第六王子の数歩先を歩きながら思った。
踊り子の会がいつも集まっている教室は知っている。
先ほどまでいた教室を出て、階段を下り、中庭前の廊下を通った先にあるため、真っ直ぐ向かえばほんの数分で辿り着くだろう。
ウィルは一つため息をつく。
手のひらには手のひらサイズの紙片が開かれている。
教室から出る際に、バーツ経由で受け取ったフィレンからのメッセージだ。
そこには、「中庭で待つ。時間をかけて王子を連れてきてくれ」と書かれていた。
「時間をかけて」といっても目的地は目と鼻の先だ。
遠回りしたり、迷ったふりをして時間を稼いだとしても、王子を怒らせてしまえば、中庭に連れていくことは難しいだろう。
チラと王子を見る。
王子は自身の肩までも積まれた紙が落ちないように、慎重に歩を進めている。
って、ちょっと待て。
大量に積まれた紙の束を持って歩く王子に、その前を手ぶらで歩く一般学生、という構図は危ないのではないか。
王族、いや王族を慕っている学生にでも見られてみろ。
明日には住む場所が無くなっていてもおかしくない。
立ち止まって振り返ると、王子もその場に立ち止まった。
ただ、こちらが口を開くよりも先に王子が目線も合わせずに言った。
「次の角を曲がってくれないだろうか」
意表を突かれたウィルは「ええ」と曖昧な返事をして、再び歩き出そうとしたとき、別の声が投げかけられた。
「よう。元気にしてるか、弟よ」
ウィルに対してではない。
その後ろ。
第六王子に掛けられた言葉だったが、当の王子は顔を伏せている。
その男は少し癖のある長い金髪に紫の目だった。
後ろにはそれぞれが男物のカバンであったり、キラキラした男物の服だったりを持つ、異なる髪色の女性が四人もいた。
男の荷物だろうか。
ウィルにはこの男の心当たりがあった。
王子に向かって「弟」と呼べる人間は数少ない。
第五王子のシャルマン・ミッドガルドだ。
第五王子は、常に女性を連れていることで有名であり、その上、金髪に紫の目というのも王の血を継ぐなによりの証拠だった。
汗が額を伝る。
まずい。なにか弁解をしなければ。
しかし、何を。
いや、むしろ弁解をする方が良い訳がましく聞こえてしまうだろうか。
思考が目まぐるしく回り、視界もグラグラと揺れている気がする。
そのとき第五王子が、鼻をならした。
「同じ王子でありながら、学生に荷物運びをさせられているとはな。愚かな奴だ」
顔を伏せたままの第六王子は、「急ぎですので、失礼します」と言い残し、足早にその場を去った。




