第二十三話
小高い丘を降り、瓦礫だらけの故郷へと足を踏み入れる。
ウィルが訊いた。
「フィレン達がミッドガルドの兵士や王に狙われていたなら、いま、ミッドガルド王国中心のウィンシャードにいるのは危険じゃないのか」
「そういえば、言ってなかったっけ」
フィレンは立ち止まって、ウィルの方へ振り返る。
「私達は――死んだことになっている。だから、全員偽名だ。生年月日も生まれもでっち上げだ。僅かに生き残った町の皆も家族も私達が生きていることは知らない。この町で育った証拠はもう、どこにもない。誰も私達が生きていることを知らない。亡霊だ。だけど……」
言葉を切って、もう一度故郷の町を見渡す。
突風がフィレンの紫色の髪をなびかせ、体を押す。
フィレンは負けじと前へ踏み込んだ。
「町を復興させ、私達を狙う何者かを根絶すれば、町も霊も生き返る。また皆と暮らせるんだ」
町の中央にはかつて木々が生い茂る広場があった。
しかし、今は木の一本も生えていない。
フィレンは落ちていた木片を使って、かつて広場があった場所の、ちょうど真ん中の地面を掘る。
懐かしい土の匂いがした。
バーツの手には一本の苗木がある。
かつて、この町に生えていた木だ。
この地方特有の常緑針葉樹で、育つと、どんな建物よりも高く伸び上がる。
次こそは、この町の、この大地の全ての建物より、どんな木々より高くなることを祈って、フィレンとバーツは苗を植えた。
フィレンはもう一度、両手を合わせる。
「大きくなるんだよ……」
バーツがポツンと佇む苗木を見て、クスっと笑った。
「それにしても、復興の第一歩が苗を植えることだなんて、フィレンらしいよ。僕なんて、まずは瓦礫をどうにかしないと何もできないって考えてたから」
「実際そうだ。まだ、崩れ切っていない建物もあるけど、それすらも壊して、町を一掃しないといけない。今まで避けてきたけれど、前に進むには町を完全に破壊しなければいけない」
「ただ、解体業者に頼むとしても、町一つを解体するには一体いくらかかるやら」
「うーん」と一同が考え込んだそのとき、後方から瓦礫が崩れる音がした。
後方を見ると、所々崩れているが、まだその形を保っている教会がある。
「あの協会……まだ残ってたんだ」
バーツが懐かしむように言う。
「確か、あそこの神父様は、良く遊んでくれたっけ。優しくて知的で頼りがいのある大人だったね」
昔に思いを馳せていると、協会の中から人が出てきた。
一瞬その神父かと思ったが、背丈が低い。
背中しか見えなかったが、そいつはウィンシャードの制服を着ていた。
ウィルがカバンから単眼鏡を取り出し、覗き込む。
「……あの薄い金髪どこかで――。そうか! 第六王子!」
落ちこぼれの六位と呼ばれるミッドガルドの第六王子は、なぜかフィレンの故郷の荒れ果てた教会から、出てきた。




