小話1 第四話
太陽が真上へと近づき、一日で最も暑い時間帯。
フィレンは色とりどりの花が植えられた小さな庭の真ん中に設置されたパラソル付きのテーブルに座り、次々と運ばれてくる料理を口にしていた。
出来立ての料理やお茶をせわしなく給仕するのは、メイドではない。
今日初めて会ったばかりの腰の曲がったおばあさんだ。
「さあ、沢山お食べ。沢山お飲み」
次々と現れる大皿料理に面食らう。
「ばあちゃん、僕はフードファイターじゃないんだ。こんなにも食べきれないよ」
どうしてこうなったのか。
理由は簡単だ。
ここは趣味が料理研究のおばあちゃんの家で、バーツは料理を食べる約束をしていたからだ。
私が家に着いた頃には、キッチンから外の暑さにも負けぬ熱気が漂っていて、バーツの代わりだと知るや否や、庭に通され、現状に至る。
老婆の料理人は向かいの椅子に腰かけて訊く。
「最近は料理で戦う人がいるのかい」
「大食いって意味だよ。それにせっかくの休日なんだ。ばあちゃんはゆっくりした方がいい」
午前中を何だかんだ潰してしまった自分のことは棚に上げ、休息を促す。
おばあさんは言う。
「休日っていうのはね、休むためだけじゃないのよ」
「休まないと体も心も持たないでしょ」
「そうね。体と心を休ませるためにも、人と交わるのよ」
「普段から嫌って程人と会うのに、休みの日にまで人と関わってちゃ疲れちゃうよ」
「そうね。人と話したり、気を使ったり、大変よね。でも、私はこうしてあなたとお話をして楽しいわ。この歳になって分かったの。人生はね、無駄と思えることを楽しむ時間が増えるほど、充実して感じるのよ。そのときそのときを楽しむのが大事ってようやく気付いたの」
優しく微笑まれて、フィレンは照れ隠しにティーカップを摘まんで口に運ぶ。
その動きを見てか、おばあさんが訊いた。
「ところで、あなた、所作が綺麗ね。女の子?」
「な、騎士学校に女はいないよ」
慌てて胸を突き出し、制服の紋章を見せつける。
おばあさんはじっくりと見て言った。
「あら、あなたウィンシャードの学生さんだったのね。もっと沢山食べな――」
と、席を立とうとするのを止める。
「――お子さんの分がなくなるのでは?」
「私にも、あなたのように沢山食べてくれる可愛い息子がいたんだけどねえ……」
そう言って、空に目を向けた。
亡くなった息子さんの代わりに、人に料理を振舞っていたのだろうか。
フィレンは目の前の料理を口に運ぶことしかできなかった。
「ごちそうさま。美味しかった」
礼を告げると、おばあさんは小さな箱を持ってきた。
「これで、人と語らう時間をとると良いわ」
箱を開けると、ティーカップが二セット入っていた。
改めて礼を言って、去ろうとしたとき、樽のように大きな男がやってきた。
「ばばあ! 花瓶買ってきてやったぞ!」
「なによその言い方! あなたが割ったんでしょ!」
「違うって言ってんだろばばあ!」
男はそう言って、家の中へ入っていく。
急に始まった言い争いに当惑していると、おばあさんは、
「見苦しい親子喧嘩を見せてごめんね」と、謝った。
「親子? 息子さんは二人いたんですか」
「違うわよ? 息子は今も昔もあのバカ一人。昔はこれくらいの可愛い子供だったんだけどねえ」
「え?」
そう。息子は死んでなどいなかったのだ。
ただ、言葉遣いが荒く、大柄に成長しただけだったのだ。
これだけ言い争えるのはきっと仲が良いからだろう。
再度、勃発した親子喧嘩を尻目にフィレンは最後の目的地へと向かった。




