↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

小話1 第二話

 喫茶店「ヴィレーン」は名物が二つある。


 一つは店主が厳選して入荷している茶葉を使った紅茶だ。

 朝にふさわしいサッパリとした味わいの紅茶から、ミルクティー用の濃い目の紅茶まで多くの種類があり、その紅茶に合わせた菓子も出している。

 そのため、主婦や学生といった若い世代も多く訪れる。


 二つ目はヴィレーンの店主のニファである。

 艶やかな長い髪と令嬢のような気品を持ちながらも、親しみのある笑顔を向ける彼女に、本来の客層ではない男達も足しげく通っている。


 その中年の常連客は慣れ親しんだカウンター席に二人並んで腰かけていた。


「なんだ。今日はフィレンが店番か……」


「ああ、コーヒーにしとこう」


「あんたら、どうせ紅茶の味なんかわかりゃしないだろ」


 棚から二つのコーヒーカップを取り出し、既に焙煎され、サーバーに満たされたコーヒーを注ぐ。


 まだ開店したばかりの店内には人が少ない。


 常連の二人以外には、テーブル席に腰掛ける老夫婦くらいだ。

 その老夫婦は目を細めながら静かに紅茶を飲んでいるため、鳥のさえずりと、コーヒーを注ぐ音だけが耳に届く。


 緑の多い店内にふさわしい自然のBGMに癒されていると、常連の一人が「そういえば、」と話を始めた。


「最近はドッペルゲンガーの噂を聞かなくなったな」


 もう片方が相槌を打つ。


「確かにな。なんだったんだろうな」


 フィレンはカップを差し出し、言う。


「いるわけないよ。ドッペルゲンガーだなんて」


「だよな」と常連の二人が笑ったとき、ゴトン、と音がした。


 その音には二人も気づいたようで、フィレンに訊いた。


「上に誰かいるのか?」


「ニファはついさっき出ていったし、他に誰かいるとは聞いていないけど……」


「ニファちゃんのドッペルゲンガーか?」


「バカ言うな。ちょっと見てくるよ」


 そう断りをおいて、階段を上る。


 上階には、倉庫代わりにしている食糧庫と、寝室、シャワールーム、空き部屋が一室ある。

 一室ずつ部屋を確認するが、人影らしきものは見当たらない。


 全体的に室内は整理されていて、人が隠れられる場所もなかった。


 食糧庫に入ったとき、赤い何かが足に当たった。

 慌てて足を引き、足元を見ると、それはリンゴだった。


 フィレンは下に戻り、拾ったリンゴをカウンターに出す。


「ほら、常連さんにサービスだ」


 一人がリンゴに噛り付きながら訊く。


「で、どうだった?」


「ああ、多分リンゴが落ちた音だろうな。誰もいなかった」


 リンゴをかじる口が止まり、じっと手に持つリンゴを見つめていたが、やがて諦めたように再び咀嚼を始めた。


 その後は、「娘がネコを飼いたがっている」とか、「俺は犬派なのに」とか、「そもそもペットを飼う余裕はねえ」とか、どうでもいい雑談をしていると、ニファが帰ってきた。


「ごめん。お待たせ」


 手には何も持っていない。

 急な買い出しではなかったようだ。


「どこ行ってたんだ?」


「ちょっとね。調べごと」


 そう言いながら、お礼と言わんばかりに、茶葉の入った袋をフィレンに手渡すと、二階へと繋がる階段に足をかけ、続ける。


「ありがとね。もう、大丈夫だから。他の方たちの方に行ってあげて」


 颯爽と階段を上る背中を見送り、常連と適当な挨拶を交わして、外へ出る。


 まだ、日は昇り途中だ。

 さっきは、断る間もなく、仕事を任されてしまったが、残りをサッパリと断り、ベッドで紅茶でも飲みながら読書をしよう。


 ――貴重な休日を、有意義に過ごすんだ!


 そう息巻いて次の目的地へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。