第二話
「起きて。フィレン」
声がする。
目を開けると、窓から差し込む光を受けてキラキラ輝く金髪の親友がそばに立っていた。
朝にも関わらずピシッと着こなした学生服姿だ。
「…おはよう。バーツ」
なんとか、ベッドにうつ伏せのまま返事をする。
「今日は一限から授業があるんだから、支度しないと。ああ、もうこんな髪をぐしゃぐしゃにして……」
同郷の親友バーツは母親みたいに世話焼きだ。
「ほら、椅子に座って。髪を整えるよ」
腕を引っ張られ、ふらふらと椅子に着地する。
「別にいいよ。髪なんて。今は男なんだし」
「ここは騎士養成学校だよ。身だしなみに厳しいことは知ってるでしょ」
バーツがフィレンの髪を櫛でとかしながら続ける。
「にしても、ここまでバッサリ切らなくても良かったのに……」
「……」
私たちが通うウィンシャード騎士養成学校に通うことが許されているのは男のみだ。
当然、女の私が入るには男に変装するしかない。
だから、肩まで伸びていた髪を短く切ったのだ。
そのときの少し残念そうなバーツの顔を今も覚えている。
しかし、これは覚悟の証でもある。
故郷の私との決別の証。
静かに呟く。
「バーツ。私たちの目的は故郷イメルーナが破壊された理由を知ること。そして、関わったやつら全員に報復すること。そのためなら、私は鬼にも男にもなる」
「うん。そして、町を復興させて、また必ず皆で暮らそう」
私たちの故郷イメルーナはミッドガルド王国の領土である。
王国はさらにガムド大帝国に属している。
ミッドガルド王国はガムド大帝国の中でも秀でた経済大国であるが、その実態は弱肉強食をモットーに掲げた愚かな王により、発展した街とそうでない町とでは経済・文化的にも格差が大きい。
イメルーナは小高い丘から全体を眺められるほど小さく、経済的に豊かではなかったが、代わりに自然の豊かさと人の温かさがあった。
対して、王国の中心部に位置する街ウィンシャードは経済が活発で、その分体温が下がったような、冷めた目で暮らす人々が多くいる。
その街の一等地に騎士を養成するためのウィンシャード騎士養成学校がある。
この学校はやがてこの国のトップに立つ優秀な者が国中から集められており、そんな優秀な生徒の親には現国王すらもいる。
――そいつは故郷の破滅に関わっているはずだ。
一般民衆じゃあ、目に見ることも少ない国王に近づくにはこの王族御用達の学校が最適だ。
私達は半年前、そこの生徒になった。
「さ、フィレン。着替えて授業に向かおう」
「着替えさせてくれないの?」
「こ、このばか」
バーツは照れて顔を背ける。
彼の方が女らしいのではないだろうか。そんなことをたまに思う。
「君が女で産まれれば良かったのに。いや、でも君じゃあすぐに女だってことがバレてしまいそう。やっぱり僕が女で良かったね」
「それはどういう意味かな?」
「褒めてるのさ。女の子みたいで可愛いって」
「そういう君もたまーに女の子っぽいとこがあるからね。ほんと、気をつけてよ。特に同じ学校の人にバレでもしたら、噂はすぐ広がって、魔女狩りになりかねない」
「魔女が実在するなら、それも甘んじて受け入れるよ」
ナイトウェアを脱ぎ、リネンで胸を抑えて学生服に着替える。
「準備完了。行こうかバーツ君」
事件に向かう刑事のように勢いよくドアを引く。
――と、引いたドアと共に目の前に緑髪の男が現れ、
「うわっ!」
驚きの顔と共に、覆い被さるように学生服の男が倒れて、ちょうどフィレンの胸元に手が押し当てられた。




