第一話
丘に立ち三年前から変わらない故郷を見つめるパールホワイトの瞳。
肩まで伸びた上品な紫色の髪を風になびかせながら、仲間に告げる。
「この景色を忘れるな。必ず、私たちの故郷を取り返してみせる」
眼前には家が崩壊し、人も犬も羊もいない町。
かつて、彼女たちが過ごした町。
再び口を開く。
「絶対にゆるさない。この国に。この帝国に復讐して、私たちで建国するまで――」
これは彼女――フィレン・ムーンナイトの建国物語。
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「ムカつくんだよ! この国も! ここの民衆も!」
片腕の男が銃を振り回しながら叫ぶ。
完全な狂乱状態だ。いつ発砲してもおかしくない。
人が少ない路地へ逃げ込んだが、店が連なる通りには多くの人が、音楽隊の演奏を聴きながら呑気に買い物を楽しんでいて、暗がりの路地には目もくれない。
隣の金髪が囁く。
「フィレン。僕が的になるよ」
「ダメだ。危険すぎる」
「彼は見たところ銃を使い慣れていない。この距離なら、そう簡単に当たらないはず。もし、僕が撃たれたら、うろたえて隙ができるはずだから逃げて」
そう言い終わるや否や、金髪はすぐ目の前でフィレンをかばうように両手を広げた。
その手先が僅かに震えている。
片腕の男が銃口を右へ左へと振り回しながら叫んだ。
「邪魔だぁぁぁ!」
パンッ、パンッ、と乾いた音が連続して響く。
弾丸はすぐに壁面へ当り、壁の破片が舞った。
かなり危険な状態だ。片腕での射撃で射線はブレブレ。
人々はまだ誰もこちらに気づいていない。
流れ弾が当たるのも時間の問題だろう。
フィレンは金髪の腕を制して、片腕の男へとゆっくり歩み出る。
「そんなんじゃ、何発撃っても当たらない。だから、チャンスをあげるよ。そこの空き缶に向けて四発撃って、一発でも缶に当たれば、僕は君の目の前まで行く。銃口を頭に突きつけるも、足を撃って逃げられなくするも自由だ。もし、一発も当たらなくても見逃せとは言わない」
「舐めるのも大概にしろ! その程度すぐに当ててやる!」
男は銃口を慎重に缶に向け、撃つ。
パンッ。
パンッ。
パンッ。
三発撃っても缶には当たらない。
弾は近くのゴミ箱に直撃し、倒れ、ゴミが散乱する。
そのとき、男の口元がニヤリと歪んだ。
パンッ。
最後の一発は、フィレンが指定した缶から外れた――が、キンッと今までとは異なる着弾音が響いた。
散乱したゴミに大量の空き缶が混ざっており、運良く、その一つに当たったのだ。
男が声高らかに笑う。
「当たった! 当たったぞ。 さあ、こっちにこい!」
「待て! それは指定した缶じゃない!」
金髪の仲間が声を荒げる。
「いいや、そいつは缶に当たればと言った。確かに缶に直撃した。事実だ!」
「ああ、確かにそう言った。悪人との約束も母親との約束も等しく約束であることには変わりない。守るべきだ」
フィレンはそう言って、男の目の前まで進み、銃口を掴み胸元へ押しつける。
「さあ、僕を撃ってみろ。この鋼の心臓を撃ち抜けるのなら」
フィレンは直感していた。
この片腕の男は人を殺したことがないと。
仕草が素人だからではない。この男には人を殺すだけの信念がない。
まるで意思を持たぬ人形のように、人に攻撃を加えようとしている。
男は肩を上下させて荒い呼吸を繰り返しながら、徐々に呼吸の間隔が早くなっていく。
指は引き金に掛かっている。
「死ね!」
トリガーが引かれた。
――が、弾は発射されない。
うろたえた男が銃から手を離し、後ずさる。
「な、なぜ。なんで、なんでだ。なんでなんだ!」
そして、そのまま通りへ出て走り去っていった。
「フィレン! 大丈夫?」
金髪が不安げな表情で駆け寄る。
「うん、問題ない」
「問題あるでしょ。なにしてんのさ」
「一般的なリボルバーの弾数は五発か六発。壁に二発と空き缶へ四発撃てば、弾は尽きるのさ」
リボルバーの回転弾倉を開けてみせる。
弾を込める薬室は空の状態だ。
それを見た金髪は驚くでもなく、ため息をついた。
「フィレンのことは信頼してるよ。でも、君は自分に対してのリスクを軽視する傾向があるのを理解してほしいな。もっと、自分を大切に……あと、せめて学校では大人しくして」
この金髪の男は同郷で、同士だ。
冷静で器用な彼は、身の回りのことを手伝ってくれる執事になるときもあれば、さっきのように身を挺して守ってくれる騎士にもなる。
改めてどれだけ世話になっているか思い返すと感謝してもしきれないが、いざ口に出そうとすると別の言葉が出てしまう。
「分かってますよ。ナイト様」
「もう! 真面目に聞けってば」




