第十八話
二人のウィルは椅子に深く腰掛け、口が包帯のようなもので塞がれ、手は後ろで縛られ、足は椅子に縛られ、身動きも話すこともできないようだ。
フィレンは床のリボルバーを拾う。
弾数を確かめると、にやけ面男が言った通り、一発だけ装填されていた。
と、壁のライトが消え真っ暗に。
すぐに天井からぶら下がる照明が一か所を照らす。
光の中央には、先ほど同様に座る一人の緑髪がいた。
さっきまでと異なる点は、口に包帯を巻いていないこと。
こちらを見ると、すぐに、
「俺が本物のウィルだ! 本当だ! ほら、この銃創を見てくれ! 間違いなく、さっきあの男が撃ちぬいた痕だ」と、強く主張した。
太ももを見ると、ズボンを履いているため、一見、遠目からでは、ケガをしたように見えないが、確かに弾が当たった痕があり、そこから、血が流れ出た形跡があった。
簡単な質問をする。
「ウィル。君の父親の職業はなんだ」
食い気味に答えが返ってきた。
「た、探偵! 探偵だ。祖父の代から続いてて、俺で三代目の!」
あの男の前では親が探偵だ、という話はしなかったはずだ。
祖父の代から続いていたという話は初耳だが、それがかえって目の前の男をウィルだと感じさせた。
また照明が消え。暗闇の後、さっきよりも少し左にライトが当たる。
もう一人のウィルが現れた。
フィレンはゆっくりと近づき、眉間に銃を突きつけた。
「ま、待て! 俺が本当のウィルだって。ほら、フィレン。君、君さ、実は女の子だろ? その秘密をあの男は知らないはずだ。だろ?」
そうだ。
私はこの学校に入ってからは、人前では、『僕』という一人称を使うようにしている。
あのにやけ面男が、私の性別に気づいた様子は皆無だった。
そして、あのにやけ面は、私のことを君とか、紫髪と呼んでいて、『フィレン』とも言わなかった。
緑髪は弁明を続ける。
「それに、ほら、俺にだって銃創はある。君が巻いてくれた血を止める紐も!」
――そうか。さっき、一人目のウィルを遠目で見た時、ケガをしているように見えなかったのは、その紐がなかったからだ。
と、言うことは……。
ライトがもう一つ付いて、一人目のウィルが再び現れる。
フィレンは二人目のウィルに突き付けていた銃を下ろしながら、言う。
「そう。一人目は、僕たちが巻いたはずの紐を付けていない。そして、親が探偵だなんて、少し調べれば外部の人間でも分かることだ。だから……」
一人目のウィルが叫ぶ。
「ま、待て!」
パン。
一度だけ破裂音が鳴り、火薬の匂いがした。
眉間を撃ちぬかれた緑髪は椅子に縛られたまま、真横に倒れる。
「な、なぜ……」
一人目のウィルが倒れたもう一人のウィルを見て、困惑に固まったまま言った。
「俺だと思ったんじゃないのか……」
「ああ。よく見たら、君の足の付け根付近に紐で縛った跡があることに気づいてね。偽物のウィルが、紐を付けずに、縛った跡だけ残しておく、なんて不自然だろ? きっと、僕を惑わすために、本物のウィルから紐を奪ったんだと思い当たったのさ」
――それに、私が女だという秘密をバーツが知っているということをウィルは知らないはずだ。
にもかかわらず、バーツの前で秘密をおいそれと話すとは思えなかった。
実際、私が迷路をハンマーで壊すことを提案したとき、『こんな女の子見たことない』と言いかけて、『こんな無鉄砲な人見たことない』と言い換えた。それが何よりの証拠だった。
最も、命が掛かる場面でも秘密にしている保証はなかったが、不思議とその心配はしなかった。
ひとまず、これで試練とやらは終わったのか。
そう思い、一息ついて、ウィルを縛り付けていた紐を外した。
――と、
「せ・い・か・い」
目の前にあのにやけ面の顔。
後ろに大きく飛び、よろめいた体を、ウィルの腕が包んだ。
銃で撃ちぬいたはずのやつの顔をもう一度見る。
眉間から流れる血を物ともせず、片側だけ上がっていた奇妙な笑みは両側の笑みへと変わった形相は、まさしく悪魔のようだった。
「おまえ、ほんとに人間じゃないんだな」
「はあ? そう言ったでしょ? 悪魔だってさあ! さあ、さあ、さ。第三問は見事正解だったわけだけど、興が乗った! 余興を追加! 最後の最後。僕を倒したら勝ちってのはどう?」
やつの顔が、また、一瞬で目の前にきた。




