第十七話
耳をつんざく音が響いた。
バーツの頭を目掛けて発射された弾丸は、右耳のすぐ上の側頭部を僅かにかすめた。
一筋の血が流れる。
にやけ面は数歩後ろによろめき、驚いたという様子で銃口を覗き込んだ。
「あれ? 弾が出るとはねえ。君が演劇用だといった銃と同じものだから、ああ、撃てないものと思って、適当に構えたんだけど。……ああ、そうそう、第二問の答え。悪魔は存在する。僕が悪魔だから」
長ったらしい言い訳を聞き流してバーツに訊く。
「バーツ! 無事か」
「う、うん……」
バーツは「なんとかね」と付け加えて返事をした。
男が声を荒げる。
「無事⁉ 失格者が無事? そんなの良くない。悪じゃないか。失格者は失格者らしく、あるべきなのに」
男が手のひらをバーツの頭上へ向ける。
突然、巨大な鳥籠のような牢屋がドシンと地面を揺らして現れ、バーツを閉じ込めた。
「そこで、観客として見てればいいさ。ピイピイ鳴きながらね! ああ、でもうるさくしたら、お仕置きするからね。しつけだからね!」
「な、牢屋を出した⁉ ウィルの死体を出現させたり、消したりといい、幻覚か?」
「幻覚? おいおい、君らはあのプレゼントに触れてたよね。息も絶え絶えな緑髪君に。君は幻覚に触れ
られるのかい? 神なのかい?」
「やっぱり、プレゼントってウィルの死体のことか。ずいぶん趣味の悪いプレゼントだな」
「おいおい、なんだいその言いぐさは。君があの時、僕らが部屋に入る前に、彼を銃で撃ち殺した場合の姿を特別に見せてやったのにさ」
悪趣味なやつだ。
この男は、もしも、ウィルと二人きりのときに、彼を銃で撃っていたらどうなったのかを私に見せたかったのだ。
「幻覚じゃなかったら、なんだ。魔法とでも?」
「魔法じゃない。力さ。悪魔の力。悪魔の力ってのは人間じゃあ想像もつかないほど、強大なものでね。
ものを出現させたり、消したりっていう便利なものもあるんだよね。その牢屋もそう。この拳銃も。ああ、この部屋もそうだっけか。当然、迷路もね」
「全てお前が仕組んだと?」
「ざあんねん。僕だけじゃない。そもそも、僕自身にあらわしの力はない。今は試験官として、力を借りてるだけなんだよね。ああ、惜しい。手が出るくらい欲しい。口惜しい」
男は舌なめずりをして、まるで豪華な食事を前にしたように、出てもいない口元のヨダレを手首で拭いた。
あらわしの力?
ものを自在に現す力ということか。
悪魔の力の一つに、そのような力があるということらしい。
実際に目の当たりにしても、信じられない。
目を疑う。
頭を疑う。
耳を疑った。
夜の冷えた空気が足元に絡まる。
冷や汗が髪を濡らす。
「さて、最終問題といこうかねえ!」
そう言って、男が手を大きく広げると同時に、辺りが白く染まった。
声だけが聞こえる。
「最後はサービス問題。今まで練習をしてきた君にとっては大サービス問題! 偽物のウィルを探してね。銃を拾って、そいつの眉間に撃ち込んでね! 弾は一発。されど自決用じゃないから要注意! さあ、明けるよ。最後のショーの幕開けだ!」
霧が晴れ、視界が開けていく。
目の前には椅子に座ったウィル。
その横には、これまた椅子に座ったウィル。
その二人と三角形を作る位置に、リボルバーが一丁落ちている。
この二人の内、一人が本物。もう一人が偽物。
――間違えれば、こんどこそ本当にウィルが死ぬ。




