第十六話
――悪魔が実在するか否か。
説明するまでもないが、『実在』とは、『実際に存在する』という意味だ。
物語では角が生えていて黒い翼を持って描かれる存在。
もし、その通りの外見であれば、今まで悪魔を見たことがない。
しかし、比喩、ものの例えという可能性もある。
日常会話で「あいつは悪魔のようだ」と、言ったとき、「非人道的」と似た意味として使われる。勿論、「のようだ」の部分を取って、「あいつは悪魔だ」としても同様の意味である。
そして、実際に悪魔のような人間は沢山いる。
法の抜け穴を突き事件を起こし、法律では裁けない者。
人をゴミのように扱い、逮捕されても権力を振りかざし、裁かせない者。
どちらも人の道を外れたという意味では、悪魔と言い切っても差し支えない。
――人の道。
――人。
――人。
そういえば、目の前に佇む奇妙な笑顔の男は『人』という言葉を何度か口にしていた。
そう思い、記憶を辿りながら呟く。
「確か……。『人をこんなに待たせたらダメじゃないか。人じゃないけど。』って言ってたよな」
バーツもそれを聞いて、思い起こしたように呟く。
「うん。態度の話になったときも、『人じゃないけど』って、しかもその後、『悪魔だけど』って……」
――その発言自体が、悪魔の存在を肯定している?
もしくは、私たちを惑わせるための罠か。
『悪魔』が比喩にせよ、そうでないにせよ、問題を出した本人が悪魔に触れた発言をしているのだ。「ほら悪魔って言ったでしょ?」と言うことも、「悪魔なんているわけないじゃん」と言うことも出来てしまう。
実際に悪魔がいるかどうかなんて、悪魔の証明なのだから。
つまり、この問題の正解は出題者が自由に決められる。
二つに一つ。
二人で二つ。
答えを分散させるしかないか。
「バツだ! 悪魔なんて存在しない。存在しちゃいけない」
バーツはフィレンよりも先に答えた。
自分が悪魔だと主張したにやけ面を前にして、敢えて逆撫でするような発言にも思えた。
男の片頬が僅かに動いた気がする。
「で、紫は? 君の答えはなんなの」
「僕は、マルだ」
「ああ、はいはい。そうですよね。不正解ですよね」
銃をバーツに向ける。
銃口は頭を一直線に捉えていた。
「やめろぉぉ!」
喉から叫び声が生み出る。
足を動かす。腕を振って、出来る限り前へ、バーツの体を、頭を庇うように走る。
トリガーがゆっくりと引かれる。
いや、ゆっくりと引かれるように見えた。
時間がスローに感じる。
身体の動きが鈍い。
バーツが驚いた顔で固まっている。
――なにやってんだ。逃げろ!
そう心の中で叫ぶのが目いっぱいだった。
直観で分かった。
間に合わないことが。
弾が発射されるまでにバーツが逃げることも、バーツを庇うこともできないことが、分かった。




