第十四話
体を屈め、穴を覗くと、まず目に入ったのは奥深くの小さな光だった。
その光が少しずつ、じんわりと近づいてくるのが見えた。
きっと、実際はそこまで遅くないだろうけど、あまりに距離が遠いためか、光はなかなか近づいてこない。
「これを降りるのは勇気がいるなあ」
同じく穴を覗き込みながら、バーツが呟いた。
『降りる』と聞いて、ようやく手前に梯子が掛かっていたことに気が付いた。
灯台下暗し。
その梯子はまさしく灯台を点検する作業員が使うような、鉄製の梯子だった。
梯子の傍には等間隔に角灯が配置されている。
見つけたからには降りるべきなんだろうけど。
「初めに降りる人の恐怖は計り知れないね」
穴の深さに言及しただけの、大した意味のない感想だったが、ウィルはフィレンが恐怖を感じていると思ったらしかった。
唾を飲むと、虚勢を張った。
「恐怖なんかないね。ワクワクして今にも飛び降りてしまいそうだ」
それは遠慮いただきたい。
いつの間にか消え去った、ウィルの死体よりもひどい死体になるだろうから。
しかし、バーツは強がりだと気づかず、素直に言葉を受け取り、敬意を示した。
「流石だね。肝の据わり方が僕なんかとは違うわけだ。見習わなきゃな」
「ああ、まあ探偵を生業とする家業ですから……」
しかし、底知れぬ穴を覗きこむウィルの顔は引きつっていた。
明かりが段々と近づいてきて、入口付近まで灯る。
覚悟を決めたウィルは額の汗を拭うと、梯子に足をかけた。
内部はジメジメとしていて、ただでさえ、一度収まりかけた汗が再び頬を伝う。
降りる順番は一番下がウィル、一番上がバーツ、二人に挟まれるようにフィレンとなった。
そのため、下を先行する人は上からの落下物を受け止める格好になる。
懐中電灯と大ぶりなハンマーは別の教室で見つけた紐を使い、それぞれ体に括り付けている。
ただ、手が自由な状態とはいえ、止めどなく流れる汗を拭うほどの余裕はない。
フィレンの頬を伝わり、あご先から汗が滴る。
その水滴がウィルの腕に落ちた。
「ウィル。すまない!」
顔は見えないが、調子の良い声が返ってくる。
「なあに、ちょうどシャワーを浴びたいと思ってたところだ!」
「うん。同意」
制服が肌にピッタリと張り付いて気持ちが悪い。
もはや、全身タイツと言えるくらいに纏わりついているだろう。
ウィルはその状態に気が付いているのか、あまり上を見ないで会話をする。
「ああ、次はちょうど額に落ちてきたな! フィレン、汗を拭うと危険だから、俺のことは気にしなくていいからな!」
「わかった。ただ――」
「ごめん、今のは僕の汗」
バーツが上から謝る。
「……」
ウィルは聞こえなかったのか、聞こえない振りをしたのか、何も言わなかった。
一同は、その後も必死に口と足と手を動かし、なんとか地面に降り立った。
梯子の付近しか明かりが付いていないせいで、全体は見えないが、声の反響具合や、空気の冷たさから、広さはおおよそ予測できた。
そこは迷路の部屋の何倍もあろう巨大な空間だった。
予測できなかったのは、奥の暗闇から人の声がしたことだ。
「やあやあ! 待っていたよ! 待ちくたびれたよ! お二人さん! いや、一人増えてお三方!」
やたら、テンションの高い、人をバカにしたような喋り方。
顔が見えなくても、不快なにやけ面が脳裏に思い浮かんだ。




