一章 いきはよいよい(終)
一章完です!
思ったより長く&遅くなっちゃった!ゆるして!なぐらないで!
というわけでちょっと長めですが楽しんでいってくださいなぁ!
静かだった廊下に、ドガッシャンという景気の良い破壊音が響いた。
勢い良くフルスイングされた消火器が壁を叩き壊した音だ。
「さぁ走るよ!」
修整が始まっている壁の傷を横目に、僕達は次のループへと走る。
僕が立てた作戦はとてもシンプル。
すぐには修復できない傷を空間に押し付けて次のループに向かう。
ここが絵画の世界だとするなら、このループは『ひたすら同じ構図で繰り返し絵を描いている』状態ではないだろうか。
つまり、描きなおす速度よりも素早く破壊しながらループを繰り返せば、ループが生成される速度よりも先に行けるのではないか?
とまぁごちゃごちゃと色々な事を考えたわけだが、やってること自体は要するに圧倒的な暴力に任せた力押し。
先輩が一番得意な事だ。
「よーし次っ! んっせぇーのっ!」
ドゴン、と最早何を破壊しているのかも分からないの鈍い音を立てながら壁が砕かれる。目算通り、修復が全く間に合っていない。
明らかな超常現象を圧倒的な物理でなんとかできるのは……もう、なんというのかただのギャグだが。
今まで何の変化もなく佇んでいた扉の色が薄くなっている。
本物かと見紛うくらいだった精巧だった校庭の絵も、だんだんと色が混ざって抽象的な物に移り変わっていた。
「ぜぇ……先輩……はぁ……これっ……いけてるっ! 合ってたっ!」
べちゃ。
背後からやけに耳障りな音が響いた。
何か、いる。
先輩の顔を見ると、先輩も後ろにいる何かに気が付いているようだった。
「振り返っちゃだめ。足も止めないで。追いかけてきてる」
「そん、な……こと……いわれ……ても……」
「小鳥君もうちょっとだよきっと! がんばろっ!」
息が切れる。
足がふらつく。
正直な所、もう走りたくない。
歩くのも億劫なくらいだ。
あぁ、何故入学初日からこんな目に合っているんだ僕は。
前世で犯した罪とかいう物がもしあるなら、きっと僕は大罪を犯したのだろうと思う。
「ちょっと小鳥君大丈夫? 具合悪い?」
「……運動……はっ……にが……て……なん……」
「だらしないなぁもう。今回だけだからねっ?」
言うが早いか、先輩は僕の体をひょいと持ち上げて小脇に抱えた。
彼女は、左手に消火器、右手に僕を抱えて疾走する。
視界が振り回されてぐわんぐわんと振り回されて目が回る。
はっきりいって状況は悪化したと言っていい。
僕はとっさに口元を押さえた。
「ちょ……まっ……おろし」
「喋らないっ! 舌噛むよっ!」
先輩の姿かっ!?
これがっ! これが先輩の姿かっ!?
仕方なくぎゅっと目を瞑り、吐き気を耐える姿勢に移る。
あまり長い付き合いではないが、僕には分かる。この暴君をなんとかするのはあまりにもカロリーが高い。されるがままにしている方がまだマシだ。
「小鳥君っ! 壁だよ! 壁! ループ抜けたんじゃないっ!?」
目を開けたら胃の中を廊下にぶちまける確信があったので目は閉じたままだった。なのではっきりとした状況は分からないが、どうやら作戦は上手くいったらしい。
「あとはこれをぶち抜けば……いーくーよー! どぉーりゃぁあああああっ!」
今までは明らかに違う、鏡を叩き割るような高い音が鳴り響いた。
この空間に迷い込んでからずっと体を包み込んでいた不快感が消え、大鳥先輩の歌声がより鮮明に聞こえる。
ようやく出られた……と安心したのも束の間、僕の意識は急速に遠のいていった。
「——君。——小——君っ!」
体が揺さぶられる。
頭がガンガンする。
気分が悪い……それもとても悪い。
やめろ。
揺するな。
「小鳥君ってば!」
「んうるっさいなもうっ! なんなんだよっ!」
「あー! よかった目ぇ覚めた!」
……既視感があるやりとりだ。
目を開けると、先輩が僕の顔をまじまじと覗き込んでいた。
改めて近くから見ると、顔がとても整っている。
街中を歩いているだけで視線を集めそうなくらいの美人だ。
「あぁよかった。またぶん殴らなきゃいけないかと思った。」
口を開かなければ美人、ってやつだろうなと思う。
いちいち発想が物騒ではあるが、どうやら彼女のおかげで助けられたであろう事もまた事実。
僕は起き上がって彼女に向き合う。
「ありがとうございました。助かりました。先輩。」
深々と頭を下げる。
面倒事は嫌いだし、愛麗先輩なんて『関わりたくない先輩』の代表みたいなものだが、それはそれとして関わってしまったのならこれ以降いざこざが起きないように立ち回るのがプロというものだ。……一体何のプロなのかは知らないが。
それに、助けてもらったのに礼のひとつも言えないような恩知らずなりたくはない。
「いいのいいの! あたしも助けてもらったし……ね?」
「先輩……」
「ハイハイそこまで。私が居ないとこでやってくんない? そういうの。てか私は? 私。私にも『ありがとう先輩』くらい言ってもいいんじゃないの?」
しっとりとした空気を、機嫌の悪そうな声が遮った。
声がした方を見ると、朝僕に絡んできていた不審者……改め大鳥姫歌先輩がじとっとした目でこちらを見ていた。
「あはは、ごめんねひめちゃん。この子面白くってついからかっちゃった」
「もうほんとに……あんたの事情は知ってるけど、唾つける相手くらい選んだ方がいいわよ?」
「はぁい」
一通り談笑を済ませると、大鳥先輩は改めて僕の方に向き直った。
「小鳥君……いや、小鳥遊君。やっぱり君は優秀だね。それも思ってたよりずっと。愛麗から『一緒に巻き込まれた』って連絡来た時はどうしようかと思ったけど、ちゃんと五体満足で帰ってこれたじゃない。上出来上出来。ウチの新人としてなかなか才能あるんじゃない?」
大鳥は満足そうにうんうんと頷く。そうか……才能が……。
「ちょ、まってください。なんの……才能がって言いました?」
「え? 何ってうちの新人」
「誰が?」
「君以外に誰かいるの?」
この人は相変わらず何を言っているんだ……? 愛麗先輩もそうだが、この人達はなんでこう人の話を聞くのが極端に下手なんだ。
僕の訝し気な視線も一切気にせず、先輩は「歓迎会どうしようね愛麗」などとほざいている。
反論しようと口を開いた瞬間、聞き覚えのない声が新たに聞こえてきた。
登場人物増えすぎじゃないか?
これ以上情報を詰め込むのは勘弁してほしい。
「だめじゃないか大鳥。気に入った子を無理やり勧誘するのは」
「えぇー。だってこの子すっごく楽しいおも……優秀な人材ですよ?」
今楽しい玩具って言おうとしなかったかこいつ。
大鳥に話しかけたのは、長身の男子生徒だった。
シルエットは愛麗先輩に近く、高身長で髪が長い。立ちが整っていて、メタリックなフレームの眼鏡がよく似合っている。
「君、ええと小鳥遊君だったか。すまないね、うちの部員が迷惑をかけたようだ。」
「いえ、あぁまぁ、はい。」
「ふふ、君は正直だね。いいことだ。あぁすまない、名乗り遅れた。俺は篝。文芸部の部長をさせてもらってる者だ。よろしくね」
自然に差し出された手を握り返す。
他のとんでもない先輩方と違い、かなりマトモに見える。
「……今あたしの事ばかにしたでしょ」
「いや、今のは私への誹謗だね。間違いない」
……くだんのとんでもない先輩方が喚いているが無視する。
「この子達にも別に悪意は無いんだ。勘弁してやってくれると助かる」
篝先輩。悪意のある目で見てますその人達。それも主にあなたの事を。
篝先輩は慣れているのか、彼女たちの反論を軽くあしらって話を続ける。
「いきなり巻き込まれて君も困惑しただろう? 僕としては状況に対しての説明責任がこちらにあると思っているんだが、どうだい? 話を聞く気はないかい? 今ならさっき買ってきた良いところのどら焼きも付けよう」
……温和なように見えて、どこか底知れない不気味さを感じる。
冷静に考えてみれば、大鳥姫歌、東愛麗という曲者二人の上司にあたる人物なのだ。
普通ではないと考えるほうが正しい。
正直もう何も見なかったことにして帰りたい……が、この先輩方(特に怪力の人)がそう簡単に帰してくれるとは思えない。
色々と考えた結果、僕は彼らの話を聞くことにした。
この選択が正しかったのか、正直今はまだ分からない……が、分からない以上、とりあえず一旦いいところのどら焼きに釣られておくのも悪くないかもしれない。
先程まで異常で満ち満ちていた廊下は、まるで何事もなかったかのように静かに佇んでいた。
この静けさが平穏の始まりなのか、はたまた嵐の前のなんとやらというやつのなのか。
とにかく、今後僕の穏やかで平和な学校生活がどうなってしまうのか、今の僕には知るよしもなかった。
第一章 いきはよいよい (完)
とりあえず一章終わり!
いかがでしたでしょうか!
小鳥遊君の学校生活は果たしてどうなってしまうのか、どうぞお楽しみにしていてださいな!




