一章 いきはよいよい(4)
昨日分の更新です!!!
遅くなってごめんなさい!!!!
許して!!!!
周囲を見回す。
夕暮れの廊下。橙色の日が差し込む窓と、その反対側には教室が並んでいる。
廊下は見える限りどこまでも広がっていて、消火栓や花瓶などの設置物が等間隔に並べられていた。
「こーれは……思ってたよりまずい状況かも。生きて帰れるかなぁコレ」
窓に手をついた愛麗先輩が小さくぼやく。
……違う。近付いて気が付いた。先輩が手をついているのは窓ではなかった。
そこにあったのは、一枚の絵画。校庭に咲く桜の花びらの一枚に至るまで精巧に描かれた偽りの風景。
橙色の日が差し込む? 違う。そう見えるように廊下や窓枠が色彩豊かに彩られている。
まるでこの廊下そのものが、巨大なキャンパスに描き封じられているようだ。
現実が、ただの模写へと書き換わっている。
自分が立っているのが床なのか紙なのかも分からない。
足元がぐらついて、絵の具に沈んでいくような錯覚を覚えて目が眩む。
「全部……絵画?」
「あたし達の頭がおかしくなったんじゃなければね」
信じられなくて窓枠に手を添える僕の横で、先輩がすぅと深く息を吸い込む。
「小鳥君ちょっと下がってて、とりあえず殴り破ってみるから」
「え、そんなことして大丈夫なんですか? なんか突き破った穴からなんか出てくるとか」
「ま、そん時はそん時でしょ。もしなんかバケモンとか出てきたら小鳥君の事抱えて逃げたげるし」
先輩はにやりと笑って拳をぎゅっと握り絞め、大きく振りかぶった。
その瞬間——どこか遠くから微かな歌声が響いた。
先輩の動きがぴたりと止まる。
「小鳥君、今の……聞こえた?」
「……はい。今度はなんです? ただでさえ訳わかんないってのに」
歌声は廊下の奥から響いているようだった。壁、床、窓、様々な物に反響し、微かにしか聞こえていなかった歌声はいつしか空間を包み込んでいた。
「ひめちゃんっ……!」
愛麗先輩の顔がパッと明るくなる。
「小鳥君! これ! これひめちゃんの声だよ!」
「ひめちゃん……大鳥先輩?」
「そう! ひめちゃんの歌声は道しるべなんだよ! この歌を辿ってけば外に出られる!」
相変わらず先輩の言葉は断片的で、何がどういう事なのか何も分からない。歌声が道標? 歌を辿ったらここから出られる?
正直分からない事だらけだ……が、今はそんな事を言っている余裕がないのもそれはそれで確かなのだ。
そもそも分からない事というなら、周りの物が全部絵になっていたり、窓から放られたのに廊下に戻っていたりと、正直理解できない事しか起きていない。
困ったことに、今更何が増えても『まぁそういう事もあるか』で納得しかけてしまう僕がそこにはいた。
「ほら! 走ろう! 声。あっちの方から聞こえてる!」
先程までガッチガチの警戒モードだった先輩は、もう全部解決したとばかりに能天気な声色と表情に戻っていた。僕の呆れ顔に気付いているのかいないのか、とにかく、彼女は僕の手を掴んでどこまでも続く廊下を駆けだし始めた。
何分経ったのか。走れど走れど出口らしきものは何も見えない。それどころか、歌声が近づいてきている気すらしなかった。
相当な距離を移動したはずなのに、景色は殆ど一切変わらない。等間隔に並ぶ教室の扉や消火栓、花瓶に至るまで、全てが繰り返されている。
このままでは、脱出より先に僕の体力の限界が来てしまいそうだった……というよりもう既に限界を超えていた。
僕の手を引いて走っているこの先輩は、何故全く息を切らすような素振りすら見せないのか……。
改めて、この先輩が本当に人間なのかどうか疑うべきなのかもしれない……。
「んー? おっかしいなぁ……声は確かにこっちの方から聞こえてきてるのに……全っ然出口ないじゃん!」
「ぜぇ……そ、んなこと言われても……はぁ……」
「こんなの絶対おかしいよ! 今までこんなことなかったのに!」
息を整えながら辺りを見回し、考える。
愛麗先輩の言葉を信じるのであれば、大鳥先輩の歌声は出口……というより聞いた人を大鳥先輩の元まで導く性質があるのだろうと思う。
ぱっと見、風景は先ほどまでと変わっていないように見える。
大鳥先輩の歌声が確かに出口なのだとして、どうしてそちらに向かってもこの場所を出られない?
僕は少し考え、ひとつの仮説を立てた。
先程の飛び降りと今の『いくら走っても景色が変わらない』という現象から察するに、僕らが今いるのは『教室と廊下を切り取ったループ空間』という事になる。
……まずはこのループを突破しない限り、もし出口がすぐそこにあったとしても出られないのではないだろうか?
そこまで考えたところで、急に廊下に破裂音が響いた。
「あーもうなんで出られないのよっ! あたし何か間違ってる!?」
……どうやら、先輩が壁に拳を打ち付けた音だったようだ。
相変わらずの怪力を叩きつけられた衝撃で、壁にはヒビが入っていた。本当に末恐ろしい人だ……。
ループを先に出る必要がある事を先輩に説明しようとして、僕はあることに気が付いた。
「……先輩。今壁殴りましたよね?」
「あぁごめんびっくりしちゃった? ちょっとイライラしちゃって……」
「壁見てください」
今しがた先輩がヒビを入れた壁を二人で見つめる。
壁に深々と刻まれた傷は、見ている前でゆっくりと上塗りされていった。
「……塗りなおしてる?」
「先輩。ちょっと確実ではないですけど、出る方法思い付いたかもしれません」
頭の上に疑問符を大量に浮かべていそうな気の抜けた表情をしている先輩に、僕は今思い付いた『作戦』を話す。
作戦を聞き終えた先輩は「いけますか?」という僕の問いに、気前よくバチンとウインクをして答えた。
「まかせて! 頭使うのはショージキ得意じゃないけど……こういう『力仕事』……あたし大得意なの」
知ってます、と返し、先輩の手を強く握る。
彼女は僕の手を握り返すと、壁際に設置してあった消火器を引っこ抜いた。
えぇー登場人物が私の性癖詰め詰めなんですねぇ相変わらず。
うちのこかわいい(思考停止)
今日はもう一本上がる予定ですわ!
果たして消火器片手に何をしようというのか……。




