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リライト  作者: 暮威もあ
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一章 いきはよいよい(1)

第一話更新ですわぁ!


 

 夕焼けが窓から差し込み、廊下に少し長い影を落としていた。

 どこか遠くから騒々しいがなり声が聞こえてくる。運動部だろうか。

 頬を撫でる風はまだ少し冷たい、だが不快ではない程度の心地の良い肌寒さを与えていてくれた。

 絵に描いたように穏やかでのんびりとした春先の夕暮れ。

 何故僕は不審者先輩その二に腕をがっしりと掴まれて興味もない部活の部室に連行されているのか。

 話は数分前に遡る。


 

 放課後の教室。僕は窓際の席に座ったままぼんやりと外を眺めていた。桜の花びらが散る景色は、相変わらず精神を落ち着かせる効果があるようだった。朝は面倒な先輩に絡まれて危うく自由を奪われるかと思ったが、よくよく考えてみると無視すればいいだけの事だ。何も気にするような事は無い。

 夕暮れに沈みかけている教室はとても静かで、僕と同じく部活動に所属していないらしい数人がぼそぼそと話す声だけが薄く響いている。

 

「小鳥君!」

 

 教室はとても静かだった。確かについ先程までは。

 

「君は小鳥君!?」

「えぇ!? いや違います!」

「はぁ? 探してるの小鳥君なんだけど」

「え、はぁ?」

 

 ……随分と横暴なヤカラがいたものだ。

 覇気のある大声が響く教室の入り口の方をちらりと見ると、丁度帰宅する所だったらしい男子生徒が両肩をガシッと掴まれて揺さぶられていた。

 揺さぶっていたのは、背の高い女子生徒。足元を見る限り二年生のようだった。長い髪を左右に揺らしながら、いやに明るい声で捲し立てている。かかわりたくない。

 目を付けられる前に撤退するのが吉だ。帰ろう。

 僕は静かに荷物を纏め始める。

 

「ねぇ君! 今心底面倒そうに眼ぇ逸らした君! 君が小鳥君でしょ? ひめちゃんが言ってたよ! 『面倒な人のフリした時に目逸らしたやつが小鳥君』って!」

 

 随分と失礼な事だ。変な人を見たら目を逸らすのは義務教育で教わる事だろうが。

 それに『面倒な人のフリ』とは言っているが、面倒な人であるのに間違いはないだろ。

 勢いよくかけよってきた先輩を控えめに躱しながら廊下への退路を確保する。いつでも逃げられるようにしなければ。安息を失うわけにはいかない。

 

「僕、名前小鳥じゃないですよ。タカナシです。タカナシ。人違いじゃないですか?」

「えぇーカタカナじゃわかんないよ! 漢字で言って漢字で! ひめちゃんから聞いた名前は確か小鳥なんとかって漢字だったんだよねぇ」

「……小鳥遊です」

「あーほら合ってた! へぇぇコレがあのひめちゃんのお気に入りねぇ」

 

 あれ今この人僕の事コレって言わなかったか? 先輩はこちらの不審な目にはまるで気が付いていないようで、無垢ともいえる純粋な表情でぱちぱちと拍手をしている。

 ぶきみだ。

 

「あ自己紹介まだだったね、ごめんごめん。あたし東愛麗(あずまあいり)! 二年生!」

 

 彼女はそう言いながら僕の腕をガシッと掴んだ。意外と力が強い。

 

「ひめちゃんが待ってるの。部室行こ! あたし案内したげる。ほら!」

 

 断る間も気力もなく、僕は半ば引き摺られるようにして教室を後にした。


 なんとかして来た道を戻ろうとするが、その試みは愛麗の常軌を逸した怪力によってことごとく阻止されていた。

 力が強い上に喧しい。片手間で僕の抵抗を抑えて引き摺りながら延々としゃべり続けている。

 返事はおろか相槌の有無すら気にしていないような気がする。

 普段の僕なら、抵抗に体力を消費しそうなら流れに身を任せる事もままあるのだが、今回に関してはわけが違う。

 コイツはやばいやつだ。

 僕の中の危機感知アラートが全力で警鐘を鳴らしていた。

 

「うちの部の活動内容は聞いたよね? ひめちゃんから」

「しりません。帰りたいので離してください」

「え、聞いてない? 困るな。あたし説明とか苦手なのに」

「僕の話聞いてます? 帰りたいんですけど」

「部室言ったらきっとひめちゃんが説明してくれるよね、うん。きっとそう」

 

 だめすぎる。話を聞く気が一寸もない。先輩の姿か? コレが?

 厄日ってあるものだなぁと思う。

「……君」

 いきはよいよい帰りは怖いという言葉があるが、実際問題として帰りが怖い道は総じて行きも怖いものなのだと思う。

「小鳥君?」

 この人の話を一切聞かない怪力少女が文芸部? 創作なら低評価連打されそうな現実性の無さだ。

 

「小鳥君ってば!」

「へ?」

「っあっぶないな! 聞こえないの!? 剽窃災害のアラート鳴ってんじゃん!」


 先程までにこやかに話をしていた愛麗先輩は、切羽詰まったような表情でこちらを見ていた。窓から見える住宅街の中の放送塔からけたたましいアラームが鳴っている。


「ひょうせ……え? 何?」

「はぁ!? 知らないわけないでしょ!? っあーもうそんな事言ってたら避難遅れちゃったじゃん!」


 光の明滅を感じてふと天井を見上げると、蛍光灯の中身が液状になって点滅しているのが見えた。別に地震が起きているわけでもないのに、電灯の中で波打ってガラスを激しく叩いているのが見える。

 先程まで心地よい肌寒さを持っていた春風の様子もおかしい。風が冷たいなら分かるが、冷風と熱風が絡み合うように吹き付けてきている。

 だが窓の外に目を向けてみると、木の葉は凪のように一切動いていない。まるで風なんてそもそも一切吹いていないかのように見えるた。

 不穏、不気味といった言葉が今の状況を表すのに適切なように見えて、その程度の言葉では到底表現しきれないような生理的嫌悪で空間が満たされていた。

 

「ちょっと待ってください。剽窃災害って何ですか。知らないんですけど」

「良い? これからしばらくあたしの言うこと聞いて。絶っ対に従って。死にたくないでしょ」


 わけがわからない。剽窃災害? 剽窃……は確か他人の作品を勝手に自分の物として公表する事……みたいな意味だったか。それが災害? 今起きてる現象も意味が分からないし、情報が何も繋がらない。何がなんだかわからない。

 頭の中が真っ白になっている。

 状況だけでもう沢山なのに肩を掴まれて揺さぶられるものだからパニックどころの話ではない。


「ねぇ良い? あたしのこれから言うことそっくりそのまま復唱して。いいね?」

「え、あ、はい」

「『ずっと前から好きでした、付き合ってください、東愛麗先輩』ハイ復唱」

「ずっとまえ……いやいやまってくれ、どさくさに紛れて何言わせようとしてんだ! やばい人だ! ほんとにやばい人だ!」

「死にたくないでしょ! もうこの際あたしの事はどう思ってもらっても構わないわ! 棒読みでも適当でもいいから! ココではそういう細かい『認識』の差が生死にかかわるの!」


 肩を掴まれたまま勢いよくまくしたてられて頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。遠くから聞こえてきていた運動部のものと思われる喧騒も、いつのまにか不気味な音源へと差し替えられてしまったようだった。五感から得られる全ての情報が、高純度の不快感を流し込んできて頭が痛くなる。

 非常に、本当に、心の底から不本意極まりないが、今はこの先輩に従うしかないようだ。

 僕はどうやら、穏やかで緩い日常とは本格的に別れを告げなくてはいけないようだった。

怖いの苦手だからかあんまりホラー描写のインプットがなくて、これでいいのかとっても不安。

剽窃災害って何なんですかね(自問)

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