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第7話 おっさん、氷竜の幼体と戦う

 俺を除いてここには合計で六人の冒険者がいる。うち負傷者は三人。一人が一人ずつ運び出すとして、フロストワームを足止めする役が必要になる。


 俺の言葉が届いたのか、彼らが急いで怪我人を運び出すのが蒸気の霧を通してうっすら見えた。そのあいだにも俺は崖の上から炎弾をフロストワームに向けて放ち続け、どうにか奴の気を逸らしていく。


 こんな芸当は普段からできるわけではない。炎弾の魔法は一日に五発も撃てれば調子が良いほうだ。魔剣がなければとっくに魔力切れを起こしている。


 どうにか彼らが崖下の沼地から出ていくのを見届け、安心した。その時だった、フロストワームが勢いよく俺の立つ崖上へ飛びかかってきた。奴の全長は一〇メトルを優に下らない。少し跳躍するような感覚で俺のいる崖上まで飛び乗ってきたのだ。


「う」

『しゃあ! ここからタイマンってわけか!』

「うおおおおおおお!?」


 俺を見下ろし完全な敵意をもって睨みつけてくるフロストワーム。怖気をふるって「封刻」を発動しそうになる。しかし次の一手が思いつかない。


 逃げる? 駄目だ、劣悪な湿地帯を走ってこいつの足から逃げられるとは思えない。


 救難信号? いや、先ほど信号が撃たれてから時間が経っていない。他に誰も駆けつけてこないところを見るに、おそらく助けは望めない。


 戦う、それ以外の道が思いつかない。


 フロストワームが長い尾をしならせて地面に叩きつける。その爪牙で切り裂きにかかる。氷の礫を放ってくる。避けれる攻撃は素の身体能力で避け、不可避の攻撃は「封刻」を使って回避する。


 そのまま思考を回した。今ここで最も有効な攻撃は何か──。


「っ、一か八かか!」


 俺は「封刻」を発動した。


 すぐさま炎弾の魔法を顔に向けて二連射する。ただし、今回の狙いは口ではなく目だ。


 おそらく奴は視界で物事を判断している。先ほど短時間だが霧のせいで冒険者たちを見失っていた。もしかしたら他にも感覚器官があるかもしれないが、視界をメインに使っている可能性が高い。


 止まった時間のなか、炎弾によって両目を撃ち抜いた。直後に滞っていた景色が戻り、発狂したような絶叫が再び響き渡る。


 フロストワームが大きく頭を揺らしながら身悶え、暴れ狂っていた。


 無造作に振るわれる尾を必死に避けながら奴の動きを観察する。やはり視覚以外の感覚器は発達していない。


『やるじゃねえか!』

「まだだ! まだ足りない!」


 一〇秒後、再び「封刻」を発動。両目の生傷をえぐるように炎弾を二回放つ。いくら暴れていようと、止まったような時間のなかでは良い(まと)だった。


「もう一撃!」


 「封刻」の冷却期間が上がるたびに炎弾を両目へ放ち続ける。奴の全身は硬い鱗に覆われているので、炎弾を当てるとすれば眼球や口内など柔らかい部位しかない。


「さらにもう一撃!」


 何度炎弾を撃っただろう。ひときわ大きな絶叫とともにフロストワームが崩れ落ちた。


 戦っている最中は一心不乱だった。気がつくと俺の前には眼窩から脳天を焼かれたフロストワームが倒れていた。巨大な体躯はいっさい動かなくなっていた。


「た、倒した……のか」

『ふぃー、だいぶ魔力使ったな。しかしオマエ結構えげつない倒し方するじゃねえか』

「これ以外思いつかなかったんだよ」


 緊張が一気に解け、俺は後ろに倒れ込んだ。


 なんとか倒せたが、一人になったときには絶対に死んだと思った。こんな戦闘は二度と御免だ。


 フロストワームの死骸が溶け出して沼のなかに沈んでいく。底のほうに水色に輝く宝石のようなものがあった。魔石だ。魔物は倒れると魔石を残してダンジョンに吸収される。


 俺は魔石を拾った。フロストワームクラスの魔石はCランク冒険者でも中々手に入れづらいと聞く。思わぬ儲けだが、今日の苦労を考えると割にあっているのかどうか。


「そうだ、あいつら無事に帰れたのか……?」


 先に離脱した六人のことを思い出す。上層で他のパーティーに救助されていることを祈りたい。


 あと、そもそも「蒼き風」の面々に俺がダンジョンに潜っていることがバレていないだろうか。そちらも心配だ。声はかけたが顔は見られていないし、なんとか誤魔化せればいいのだが。


「まあバレても仕方ないか」

『これからどうするんだ?』

「なにはともあれ、帰ろう。さすがに疲れた」


 予想以上に長い戦いを終え、俺は地上へ帰った。


 ちなみに朝日が昇っていた。

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