第4話 おっさん、再び冒険者になる
一回だけだぞ! そう言ってダンジョンに潜ることになったわけだが、このままの姿で行くのは気が引けた。
もしも冒険者パーティー「蒼き風」のメンバーを始めとした知人に出会った時が困るのだ。一週間前に引退したばかりのおっさんがダンジョンに潜っていたら驚くだろうし、先週の集まりは何だったんだと思われるだろう。せっかく彼らが善意でご馳走してくれたのに、それを足蹴にするような真似はしたくない。
なので俺は今、グレートヘルムを被っている。ひっくり返したバケツみたいな形をした兜だ。これだけだと見た目がアレなので、簡易な鎧や籠手なども身につけている。さらにマントで剣も隠した。まだ少し目立つかもしれないが、こういった冒険者もいないわけではない。
『ったく、防具なんざ着けてる時間がもったいねえよ』
「後輩に見られたくないんだ、これくらいいいだろ」
そんな会話をしながら、俺は目の前の建物を見た。十段ほどの石段の先に、真っ白な神殿のような建造物が鎮座している。
冒険者ギルドが運営する迷宮神殿だ。この中に、ダンジョンへ通じる大穴が存在している。この街のダンジョンへの入り口はここだけで、どんな冒険者であっても利用することになる。
さて、問題が一つある。
ダンジョンに潜るには迷宮神殿の大穴を通る必要がある。そして大穴へ向かうには毎回受付で冒険者証を提示しなければならない。これが第一の関門だ。受付には俺がジェイクであることがバレてしまう。当然だが、向こうは冒険者の顔と名前くらいは記憶している。
そこで俺は……誤魔化さないことにした。普通に冒険者証を提示してダンジョンに潜る。
そもそも彼らは俺が引退宣言したことをおそらく知らない。顔と氏名は覚えていてもそこまで深い付き合いじゃないので、せいぜい最近ジェイクさん見ないなー程度にしか思ってないだろう。
そして万が一俺が引退していることを知っていても、そこを突っついてくることはない。受付を始めギルドの職員には守秘義務がある。冒険者の顧客情報をむやみに他人へ話してはならないのだ。ならば俺は堂々としていればいい。蒼き風のメンバーに伝わることはない、多分。
というわけで、受付で冒険者証を見せた俺は、何事もなくダンジョンへ続く大穴にやって来れた。
油圧式の昇降機に乗って、ゆっくりと暗い自然の洞窟へと沈んでいく。魔剣が心の底からワクワクしたような声を上げていた。
『はっはっは! やっと全力で戦えるんだな! ジェイク、最深部までさっさと下るぞ!』
「いやお前な……言っておくがそこまで深く潜るつもりはないぞ。いつも通り、22階層のリザードマン退治だ」
『はあ!? なんでそんなぬるい仕事しなきゃいけないんだよ!』
「こっちは一週間ぶりなんだ。むしろもっと上層で慣らしていった方が良いまである」
『オレは二〇年以上待っていたんだぞ!』
そんな泣き言を聞き流しながら、俺はダンジョンの中を進んでいく。すでに日付が変わる頃だというのにダンジョンにはたくさんの冒険者がいた。やはり上層だと人が多い。
歩いていくうちに分岐が見えてきた。右が第二階層へ進む道、左は第五階層への近道になっている。こういった近道は意外と多いのだが、初心者が迷い込むと面倒なのでギルドの講習で必ず口酸っぱく注意される場所だ。
左の近道を選択してさらに深く潜っていく。すると目の前に岩のような体を持つトカゲが数匹あらわれた。ロックリザード。動きは遅いが、咬合力に長けており足を骨ごと噛み砕かれた例もあるほどの魔物だ。
「ま、こいつなら大丈夫か……」
『よっしゃ、初陣だな! 思う存分叩き斬れ!』
「え、お前の力ってのを使うんじゃないのか?」
『こんな雑魚に使うわけねえだろ、ただ振って斬って殺せ!』
無茶苦茶な言い分だったが敵は待ってくれない。とりあえずいつも通り一匹ずつ慎重に倒していく。遠距離から魔法を放って足止めしつつ、近づく敵には重たい一撃を当てる。
「なんか体が軽いような……」
『いまさら気づいたのか? 共鳴してるんだから当然だ』
なにが当然なのか分からないが、どうやら俺の身体能力にも影響が出ているらしい。魔法を使うときの魔力が失われる疲労感もない。
『オレたちは魔力を共有している。まあほとんどオレの魔力だけどな。オマエが魔法を使うときオレから魔力を引き出せるようになったから、今後は魔法をケチる必要もねえ。存分に使え!』
そんなわけで今までが嘘のように目的の22階層まで辿り着いてしまった。
この作品を気に入ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




