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第2話 おっさん、古装備屋になる

「ふあぁ……まだ眠い」


 石畳の路地でほうきを掃きながらあくびをする。


 俺の実家にして新たな職場、古装備屋「鉄錆亭」の軒先だった。年季の入った木骨レンガ造の二階建てだ。


 朝、迷宮街の冒険者たちがすでにまばらに見えるなかで開店準備を進めていた。表の清掃を終えて店内に入ると、なめし革の匂いが鼻腔を突いた。


 店内は狭く、棚や壁を余さず使って武器や防具が展示・陳列されている。はたきを使って埃を落とし、床をほうきで掃いた。


 三日ほど前から、俺は「鉄錆亭」の店員として働きはじめた。主な業務は古装備の売却と買取。俺は清掃や接客を担当し、買取や査定、装備の修繕は親父が奥の部屋でおこなう。


 「鉄錆亭」で働くのは初めてではない。冒険者になる前は家の手伝いをするのが普通だったし、冒険者になったあとも何度か短期間だが働いていた。その時も接客や掃除をしていたので、特に迷うことはなかった。


 店内の清掃を終え、三角看板を表に出す。梁に吊るされた魔法石入りのランプへ魔力を込めると、店内を優しい暖色が包んだ。鍵束を持ってきて勘定台の引き出しを開く。帳簿と金銭が保管されていることを確認して、再び鍵をした。


 二階の階段から足音がして、ややもすると親父がやってきた。


「ジェイク、飯だ。上がってこい」

「ああ」


 表の戸締りをして二階へ向かった。


 親父は寡黙だ。必要なこと以外話さない。ただ、挨拶は欠かさないし、何かと昔気質な人間だと思う。


「いただきます」


 目玉焼きとベーコンを乗せたパンをミルクで胃に流し込む。


「今日は昼過ぎから査定の依頼が一件入ってる。来たら取り次げ」

「わかった」

「あと錆落としの粉が切れそうなんだ。時間があるときにチャールズのところで買ってきてくれんか」

「おう」


 朝飯の時間が終わると同時に教会の時鐘が鳴った。開店時間だ。


 表戸を開け放って、開店中の札を出した。


 「鉄錆亭」はそこまで客入りの良い店ではない。もともと、この店がある銅貨通り自体が通行人の多い区画ではないのだ。


 新人冒険者や金欠の人間がふらっと訪れることが多く、通りに並ぶ店舗も安宿や安価な道具屋などが主流となる。そのためどうしても治安や清潔さには欠けていた。


「や、安めの革鎧が欲しいんですけど」


 たとえば、右も左も分からないといった新人冒険者の少年。


「この剣の買取をお願いしてもいいかしら」


 たとえば、出所不明の怪しい装備を持ち寄ってくる妙な女。


「なあ、もうちょい安くならない?」


 たとえば、しつこいほど値切りの交渉をしてくる軽薄そうな男。


 そういった個性的な客の対応を一手に引き受けるのは、ダンジョンで魔物の相手をするときとは違った難しさがあった。この辺りは慣れだろうなとも思う。


 夕方、表戸が開いて真鍮のドアベルが客の来訪を告げた。


 白髪の老人だ。大きな袋を背負っている。


「いらっしゃい」

「あれ、グレームさんじゃないのか」

「息子のジェイクです。親父に何か用事ですか?」

「ちょっと買い取ってほしいものがあってな」

「あ、査定の依頼ですか?」

「そうそう」

「いま呼んできます」


 この店では装備の買取もおこなっているが、装備の鑑定は親父が担当しているので俺は取り次ぐだけだ。ただ、目利きのやり方も近いうちに教わる予定である。いずれこの店は俺が継ぐことになるのだろうから。


 やがて閉店時間がやってきた。売上から今日の利益を計算し、帳簿をつけていく。あとで親父にも確認してもらわなくてはならない。


 今日は兜や籠手がいくつか売れた。歯抜けとなった陳列棚を補充するため、地下倉庫からいくつか防具を持ってきて並べておく。品出しも任されている仕事の一つだ。


 最後に軒先の看板と開店中の札を仕舞って、魔法石のランタンを消した。店内が一気に暗闇になる。


 これで一日の業務は終わり。冒険者時代と比べると体が落ち着かないというか、自分が引退したことをまだ肉体は実感できていないのかもしれないと思った。


 手持ちのランタンを提げ、二階へ続く狭い階段を登っていく。我が家の居住スペースはすべて上の階に集約されていた。


 部屋のドアを開けると、質素な部屋が目に入った。使い古されたベッドと空きの多い棚があるほかは、壁際の樽のなかの愛用の剣くらいだ。


「ちょっと、横になるか……」


 大して体力は使っていないが、妙に横になりたい気分だった。窓を開けて月明かりの射し込むベッドに寝転んだ。


 しばらく呆けたように寝ていた。だが、うとうとしているうちに俺の耳に謎の声が聞こえてきた。


 ──暇だー暇すぎる。オレ、このままカビちまうんじゃねえの?


 夢、か? 妙に頭のなかに響く声だった。


 ──せめてこんな樽のなかじゃなくてマシな場所にしてくれ、頭がおかしくなっちまう。


 いや、夢じゃない。眠気に反して鮮明すぎる気がする。


 俺はベッドから飛び起きた。頭のなかの声はまだ聞こえる。


 ──にしてもマジでしけた店だな。どこ見ても面白みがねえ。


 なんか唐突に店をけなされた。なんだ、どこから聞こえている?


「誰だ? 誰かいるのか?」


 ──お? おお!? おいジェイク、オレの声が聞こえるのか?


「き、聞こえるけど、なんだどうした幻聴かこれ!?」


 ──剣だよ! お前のロングソード!


 …………は?

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