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第12話 おっさん、再びダンジョンに潜る

 いよいよ休日がやってきた。


 再びグレートヘルムを被ってダンジョンへと繰り出していく。


『ダンジョンだ、ダンジョンに来たぞ!』

「はしゃぎすぎだ」


 前回のフロストワーム戦から一週間以上も開いていたので、魔剣は久しぶりの散歩に喜ぶ犬のような興奮状態だった。


「22階層のリザードマン退治でいいな?」

『はあ? この前は30だったろ。なんで戻ってんだよ』

「あのな、俺は別に命がけの死闘をしにきてるわけじゃないんだ」

『しょっぺえ魔物の魔力じゃ満足できねえよ!』


 大切な休日になんで命の危険に晒されなきゃならないのか。


『この前みたいに下層の魔物がいると良いな?』

「縁起でもないこと言わないでくれ」


 エキドナ、フロストワームと前回はとことんついていなかった。魔剣の力がなければ間違いなく死んでいただろうが、だからといって次も勝てる保証はどこにもないのだ。


 22階層へ向けて下っていく。近道などを駆使すれば意外と早く辿り着くことができるので、そこまで時間はかからない。


 目的の階に辿り着いたときだった。ふいに俺の視界に一人の冒険者の影が映った。


「あれ、あの子……」


 紫色の髪をした茶のクロークの少女だ。リザードマンと対峙しながら軽い身のこなしで距離を保ち続けている。確かこの前店に来て杖を買っていった子だ。


『知り合いか?』

「いや、先日うちの店に来ていたお客さんだ。この辺で戦っているってことはDランクだったのか」


 Dランクといえばちょうど中堅のあたりである。彼女はあの歳でDランクならこの先Bランク程度まで成長できそうだ。


 紫髪の少女が杖を振るうと、人魂のような青白い火が虚空から現れてリザードマンに向かって殺到していく。リザードマンは飛び退いて逃げていくが、人魂はしつこくそれを追いかけた。追尾型の魔法使いなのか。


「例の杖、普通に使ってるな。でもなんか禍々しい気が……」


 普通の炎魔法とは明らかに違う。俺は今まであんな魔法を見たことがなかった。


 ともあれ俺には関係ないことだが。


「まあいいや。とりあえず進むぞ」


 そういって俺もリザードマン探しへ歩き出した。



 しばらくするとリザードマンを見つけた。だが数が多い。石柱や大岩が並ぶ入り組んだ空間で、三匹が岩陰にとぐろを巻いていた。三匹……いけるか?


 普段であれば間違いなく戦わないのだが、魔剣の力を使った作戦を一つ思いついたことがあった。


 少し離れた位置に高台がある。この高台は一か所からのみ上がることができる。他の面は勾配がほぼ垂直か、ねずみ返しになっていて登れない。俺はその高台に立って魔剣を鞘から抜いた。


 それから「封刻」を発動。五秒程度の停滞のなかで炎弾の魔法を二連発で撃った。すやすや眠っていたリザードマンが火達磨になる。まずは一匹、確実に撃破した。


 リザードマンは特に温度変化に弱い。なので彼らは火属性と氷属性が弱点だった。


 時間が戻る。奇襲を察知したリザードマンがこちらに気づいて飛び起きた。しかし高台のうえにいる俺の場所までやって来るのはすぐには難しいだろう。俺は炎弾を上から撃ち下ろし続けていく。


 リザードマンは俊敏だ。炎弾は回避されてしまうが、時間を稼ぐことはできる。そのまま続けて「封刻」を発動。二体目に炎弾を連射して黒こげにした。


 残りの一匹だったが、高台への上り道に気づいて俺のもとまで上がってきた。だが一匹程度であれば俺も今までの戦闘でさんざん倒してきている。相手の動きを的確に回避しながら、隙を見てそのまま相手の首を刎ねた。


 刀身についた血を振り落として、鞘に収める。魔剣が言った。


『おー、この感覚……共鳴度が上がってきたな。「封刻」の時間も一秒程度は伸びてんじゃねえか?』

「あんまり体感は変わらないけどな……」

『このまま今日中に二つ目の剣技まで行けりゃ良いんだが』

「十日に一回の運動で身につくものなのかよ?」


 リザードマンの魔石を回収して、再び獲物を探しに歩き出した。


 一匹程度であれば「封刻」の時間のなかで倒しきれるので苦労することもない。気づいた頃には、背負い袋のなかに魔石が入り切らないほどになっていた。


『だー、やっぱりもっと深い層に行かねえと伸び幅も小せえな!』

「さっきは共鳴度が上がってきたって言ってただろ!」

『ちょっとは成長してたさ。だが大きく伸びたいならもっと強敵を倒すべきだぜ』

「別に俺は強くなりたいなんて一言も言ってないからな」


 魔剣の相変わらずな物言いを適当に受け流しながら、俺はそろそろ上層に戻ろうかと考えていた。時間的にも背負い袋の容量的にも潮時だ。


 しかし踵を返そうとしたその時、腹の底に響くような重い叫び声が聞こえてきた。どの魔物のものでもない聞いたことのない声だ。


「っ、なんだ?」


 音源のほうに目を向けるが、この辺りは入り組んだ岩場が多く見通しが悪い。


『お、急に魔物の匂いが増えたぞ。そこまで強くねえが数が多いな』

「なんだって? 一体どうして」

『そんなもん知るかよ。戦うか? まあ俺としちゃどっちでもいい、雑魚の相手は飽きた』

「いや俺だって別に。向こうの方角なら襲ってくることはなさそうだし……」


 言葉を紡ごうとして途切れた。確かに敵は襲ってこないだろうが、そういえば帰り道の方角も向こう側だったことを思い出す。


「どのみち通るなら、まあ、状況だけでも確認するか……」

『行くのか。ならさっさと片付けようぜ』


 俺たちは22階層の一角に駆けつけた。すでにそこには大量の魔物がひしめいている。


 シミターを持った骨人間はスケルトン、赤黒く染まった包帯を全身に巻いているのはマミー、貪食さを示す大きな口を開いているのはグール、体の要所がグズグズに崩れているのはゾンビだろう。


 見るからにアンデッド。それも一体や二体ではない。群れと表現するのが適切な量に思える。


 しかし妙だ。こいつら、上層階の魔物じゃないか。アンデッド系はほとんどが10階層台に出現するはず。なんで22階層に出てきているんだ?


 だが俺の目はほかの場所へ引きつけられていた。


 例の少女がそれらのアンデッドたちと対峙していたのだ。いくら上層のアンデッドといえども、一人が相手するには荷が重いのは明らかだった。


「仕方ない、ちょっと加勢するぞ」

『おうよ相棒。さあ魔力よこせ!』

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