第10話 おっさん、魔剣と約束する
「色々考えてみたんだが」
ある晩、俺は魔剣と対面していた。
「どれだけ言われても俺は冒険者に復帰しない。でも、お前のおかげで楽できている時があることも事実だ」
俺は魔剣に振り回されているが、一方でその恩恵も少なからず受けている。相手の要求にもある程度答えておかないとフェアじゃないと考えた。
「だから、十日に一回だけダンジョンで魔物狩りをする、ってのはどうだ」
『少なすぎるだろ!』
それじゃ足りんといった風に魔剣が文句を言ってくる。
「仕方がないだろ、休暇がその日だけなんだから。普段は仕事があるんだ」
『仕事を引退して冒険者になれ!』
「無茶苦茶言いすぎだろお前」
相変わらず横暴な言い草に頭を掻いた。
「むしろ貴重な休暇を使ってやるって言っているんだ。これでも譲歩しているんだぞ」
『け、仕方ねえ。ひとまずそれで勘弁してやるか』
だが今回は珍しく妥協してくれたらしい。それにしてもこいつのダンジョンへの執着というか、魔物への執念はいったいどこから生まれてくるのだろう?
「しかし、なんだってお前はそこまで魔物を倒したいんだ?」
『ああ? 気づいてなかったのか。オレは魔物を倒すほど魔力を増やせるんだよ』
まったく気づいていなかった。だからあれほどの無尽蔵の魔力を蓄えていたのか。俺が冒険者時代にさんざん倒した魔物からも、こいつは魔力を吸い取っていたんだ。
「共鳴ってのも結局俺はよく分かってないんだが。つまりどうなれば共鳴度が上がって剣技が増えるんだよ?」
『正直オレも分からねえ、共鳴度に関しちゃ感覚で判断してるし』
「お前が分からんなら誰も分からん」
『多すぎて絞りきれねえんだ。過去のオレの持ち主が剣技を使えるようになったきっかけはいくつもある』
魔剣は過去を反芻するように低く唸った。
『まあ多いのは腹に穴が開いて死にかけたり、誰かに手ひどく裏切られたりした時だな』
「どっちも嫌すぎるだろ」
どんな魔境で戦ってきたんだこいつは。そりゃ、あれだけバトルジャンキーにもなるし強敵が出てもヘラヘラ笑っているわけだ。
「そういえば、前の持ち主がいたのか」
『細かい部分は覚えてねえけどな。一番記憶に残ってるヤツはオズリックとかいう名前だったか』
「…………おいそれ伝説の迷宮王の名前じゃねえか!?」
『は? なんだそれ?』
俺は思わず立ち上がってしまった。
迷宮王オズリック。今からおよそ五〇〇年前にほぼ全ての迷宮を踏破したと言われる伝説的存在だ。
しかし彼の遺産はどこにも見つかっていない。今もどこかの迷宮の底に眠っていると言われたり、あるいはすべてデタラメだったなんて話すらある。
『オズリックは最初からオレの剣技を全部使えたぜ。二〇年も共鳴しなかったオマエとは大違いだな?』
「いや迷宮王と比べられてもな……」
偉人と比べてお前は劣っていると言われたところで張り合う気にもならない。
オズリックについて同名の別人の線も疑ったが、魔剣の話を聞いていると本人に違いないのではないかと思えてくる。
『一番痛快だったのは空の迷宮のボスをぶった斬った時だな。大天使とかいうスカした羽虫がいたんだが、オレはそいつの首を一撃で跳ね飛ばしてやったのさ』
「迷宮王の話なんて半分童話の世界だぞ。本当にあったんだな、天空迷宮は……」
天空迷宮。かつて空にはたくさんの島が浮いており、そのなかの一つにその迷宮は鎮座していた。迷宮王オズリックが若かりし頃にたった一人で乗り上げて攻略した意外、その迷宮はほかに誰ひとりの侵入も許さなかった。そのせいで偽史として扱われがちだった。
この魔剣は、五〇〇年前の生き証人といっていい。毎回思うが俺の剣はとんでもない秘密を抱えすぎている。二〇年もともにしていたのに知らないことばかりだ。
「なあ、お前はいつから意識があるんだ?」
『だからオレは記憶が曖昧なんだよ。まあ、一番古い記憶っていうと……確かどっかの王族が捕虜になって、その身代金代わりにオレが売られたときがあったな。それくらいか?』
「駄目だすまん、全然わからん」
元冒険者で現古装備屋の俺は歴史の知識なんて皆無だ。もしかしたら魔剣はとんでもない時代から存在していたのかもしれないが、俺にその素晴らしさを理解する頭はない。
たまには神殿の書庫でも利用してみようかね。冒険者用のものが多いが一般的な歴史書なども置いてあったと思う。ぼんやりとそう考えながら眠りについた。
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