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「ハッハッハ! 見なさいコウタ! ギルドから直々の呼び出しよ! ついに世界が、私のこの溢れんばかりの『更地力さらぢりょく』を認めざるを得なくなったようね!!」


カナは、ギルドからの公式な召喚状を(なぜか破りそうになりながら)掲げ、街の目抜き通りを大股で歩いていた。

あの呪われた湿地帯の霧を完全に晴らし、泥濘を更地へと変えた功績は、ギルド内でも「奇跡の土木工事」として噂になっていたのだ。


「……あ、いっす。……賢者さんが泣きながら魔法陣を描いて、俺がシステムを最適化して、職人さんたちが必死に働いた結果っすね。……カナさんがやったのは、泥にハマって叫んだことくらいっすけど」


「何を言うの! 私が溺れることで、貴様たちの危機感を煽ったのよ! 私の『命の輝き』こそが、最高のバフだったってわけ!!」


ギルドの謁見室へ通された一行を待っていたのは、かつてカナを警察に突き出そうとした例の受付嬢と、さらに高位の役人だった。

彼らはカナの「水着+マント」という絶望的な正装に一瞬だけ顔を引き攣らせたが、公式な書状を読み上げた。


「……ええ。……湿地帯の呪いを浄化した功績を認め、あの土地を正式に、カナ様一行の所有地として登録いたします。……合わせて、この地の開拓における『名誉開拓卿』の称号を授与します」


「にししし! 当然よ!! さあ、その『名誉』とかいうやつ、私だけじゃなくて、私の建国の根幹を支えるこの『食の重鎮』にも与えなさい!!」


カナが背後から強引に引きずり出したのは、例の「クソマズパン屋のジジイ」だった。

泥のついたエプロン姿で、「ここはどこじゃ、小麦粉はどこにある……」と徘徊老人じみた呟きを漏らすジジイに対し、役人たちは石のように固まった。


「……あ、カナさん。……貴族の集まる場所に、その……バイオテロ(パン)の元締めを連れてくるのは、流石にマナー違反(デバッグ案件)っすよ」


「何よ! 建国には美味しい(?)食事が不可欠でしょ! このジジイを『パン侯爵』くらいに叙勲して、私のハイテク都市のメインダイニングを任せるのよ!!」


「……あ、いっす。……役人さんが今、無言で衛兵に目配せしたっすね。……土地はゲットしたんで、これ以上事案を増やす前に、ジジイ担いで撤収するっすよ」


コウタはジジイの腰を抱え、絶望的な不味さを誇るパンが詰まったカゴを回収した。



「……もう、無理。……コウタ、私、もうこのパンは見たくもないわ。……口の中が、まるで乾いた砂漠を旅しているみたいにカサカサなのよ……。……建国の喜びを、この不味さが全て塗り潰していくわ!!」


カナは、手に入れたばかりの広大な「更地」のど真ん中で、クソマズパンを放り出した。

領主(名誉開拓卿)という肩書きを得た喜びも、空腹と味覚の暴力には勝てなかった。

彼女は、ボロ布を被って地面の蟻を数えていた賢者と、端末を操作していたコウタをトングで交互に指差した。


「にししし……! 方針転換よ! 食の改革は後回し! まずは、私と貴様の愛の巣……じゃなくて、覇王の仮宮と、家来の犬小屋(家)を今すぐ作りなさい!!」


「……あ、いっす。……『愛の巣』って今さらっと言いました? ……てか、いきなり家っすか。……さっきまでハイテク魔道都市とか学園都市とか言ってませんでしたっけ」


「うるさいわね! 野宿でハイテクを語れるわけないでしょ! このままじゃ、夜の冷気で私の覇気が凍結しちゃうわ!! ほら、そこにいる石積み職人(賢者)! 貴様の建築魔法で、とりあえず私たちが快適に過ごせる家を爆速でビルドしなさい!!」


「ひ、ひいい……! 魔法で家を作るなんて、そんな……そんなプライベートな空間を設計するなんて……っ。……僕の、僕のセンスが……他人に評価されるなんて、恥ずかしくて死んじゃうよぉぉ!!」


賢者は顔を真っ赤にして、ボロ布の中に引きこもろうと暴れた。

対人恐怖症の彼にとって、誰かの「住処」を設計することは、自分の脳内をさらけ出すことと同義だったらしい。


「……あ、いっす。……賢者さん、大丈夫っすよ。……カナさんの家なんて、とりあえず壁が四枚あって屋根があれば、あとは自慢の王冠でも飾っておけば満足するっす。……俺の家は、サーバーラック(棚)が一つあれば、あとは床で寝るんで」


「誰がそんな適当な家でいいと言ったのよ!! 私の部屋は、最低でも天井が十メートルあって、壁一面に私の肖像画を飾れるスペースが必要なの!! 貴様の部屋は、私の部屋のドアの前に、マット代わりに敷いてあげるわ!!」


「……あ、却下っす。……それはただの嫌がらせ(バグ)っす。……賢者さん、とりあえず俺が設計図をシステム(魔導回路)経由で送るんで。……それをそのまま物理出力プリントアウトしてください」


コウタの冷徹なサポートにより、更地の中心に魔力の光が渦巻き始めた。


 

「な……なによこれぇぇ!! あんた、それでよく建築が得意なんて言えたわね!!」


カナの絶叫が、静まり返った更地に虚しく響き渡った。


目の前にそびえ立つのは、城でも邸宅でも、ましてや家ですらない。

それは、巨大な岩を無理やり「ボロ布」の形に削り出し、窓ひとつない不気味な曲線を描く、巨大な「引きこもり用シェルター」だった。


「ひ、ひいいっ……! だって、外からの視線デバッグを遮るには、これが一番効率的なんだ……! 快適さなんて、他人から見えないこと以上に優先されるものなんてないよぉぉ!!」


賢者は、自分が作り上げた「岩のボロ布」の影に隠れながら、涙目で反論した。


「ふざけないでよ! 私の肖像画を飾る壁は!? 十メートルの天井は!? これじゃただの、湿った洞窟じゃない!! 覇王がこんな湿気た岩の中で寝るなんて、キノコでも生えちゃうわよ!!」


カナはトングで岩の壁をガンガンと叩くが、賢者の恐怖心が反映された魔力コーティングは無駄に強固で、火花が散るばかりだ。


「……あ、いっす。……カナさん、落ち着くっす。……確かに見た目は完全に『放置された粗大ゴミ』っすけど、遮音性と防御力セキュリティだけは無駄に高いっすよ。……今のカナさんには、これくらい閉ざされた空間の方が、警察ガードに捕まらなくて済むから丁度いいんじゃないっすか?」


「……あ、いっす。……じゃねーわよコウタ!! 貴様までこのゴミ屋敷を肯定する気!? 私はもっと、こう、キラキラしてハイテクで、街のどこからでも拝めるようなランドマークに住みたいのよ!!」


「……あ、無理っす。……今の予算と賢者さんのメンタルじゃ、この『岩の塊』が限界スペックっす。……嫌なら、今夜はあっちの更地の真ん中で、クソマズパンを枕にして野宿するっすか?」


「…………。……ぐぬぬ……。わ、わかったわよ! 今夜だけは、この『覇王の隠れアジト』に甘んじてあげるわ!!」


カナは、悔しさに唇を噛み締めながら、岩の隙間に作られた「ボロ布のひだ」のような入り口から、渋々中へと潜り込んだ。




「まあいいわ! とりあえずこの岩塊は『仮の司令部ベース』として認めてあげる! それよりコウタ、賢者! ぐずぐずしてないで、ジジイのアジトとか必要なインフラをガンガン作るのよ!!」


カナは「岩のボロ布」の入り口から顔を出し、外で呆然としている二人へ向かってトングを突きつけた。

一度入居を決めたら、驚異的な適応力(と諦めの早さ)で切り替える。

それがクソザコながらも覇道を突き進む彼女の、唯一の長所バグだった。


「……あ、いっす。……『ジジイのアジト』って、パン屋の店舗のことっすよね。……てか、インフラって、まだ更地しかないのに下水道とか光ファイバーから引くつもりっすか?」


「当然じゃない! まずはジジイに、この地に根付く『食の拠点(パン工場)』を作らせるのよ! そこで更なる暗黒物質……じゃなくて、覇王のパンを量産させ、労働力(職人)を餌付けするの!!」


カナは鼻息荒く、更地の一角を指差した。

そこには、連れてこられたパン屋のジジイが、虚空を見つめながら「粉……粉が足りん……」と呟きながら佇んでいる。


「……あ、最悪っす。……インフラの第一弾が『クソマズパンの量産体制』とか、この街、供給デリバリーが始まった瞬間にゴーストタウンになるっすよ。……賢者さん、とりあえずジジイの精神が安定するように、パン釜だけは魔法で最高性能のものを作ってやってください」


「ひ、ひいい……! パン釜……? 爆発したり、熱すぎたりしないかな……。……僕、対人恐怖症だけど、釜との対話なら……なんとか……」


賢者がおどおどと魔法陣を展開し、更地の中心に、不気味なほどに重厚で、かつボロ布のような意匠が施された「魔導パン釜」が隆起し始めた。

それは、ハイテク魔道都市の第一歩としては、あまりにも呪術的で食欲をそそらない外観だった。


「にししし! 見なさいコウタ! これが私の都市計画、第一フェーズ『暗黒食料自給計画』よ!! さあジジイ! 今すぐその釜で、私の腹を満たす(石のような)パンを焼き上げなさい!!」


「……あ、いっす。……俺は、その間に周辺の魔力経路ネットワークの基礎工事進めておくっす。……カナさん、ジジイのパンを食べて寝込むのはいいっすけど、明日までにはちゃんと『次の予算』、考えておいてくださいね」


カナは意気揚々とパン釜に薪(というかその辺の瓦礫)を放り込み始めた。





「コウタ! 貴様、本当にわかってないわね! 私のようなブラックホール企業(ブラック企業の上位互換)に、予算なんて概念は存在しないのよ!!」


カナは、魔導パン釜から立ち上る不穏な煙を背景に、腰に手を当てて断言した。

手に入れた土地は更地、手元にあるのは不味いパン、そして戦力はコミュ障の賢者と、口うるさいタイパ家来のみ。

しかし、彼女の瞳には、倒産寸前のベンチャー社長のような、ギラついた狂気が宿っている。


「予算がないなら、工夫とアイディアと、あとはそこら辺に転がっているものを『現地調達』すればいいのよ! これが覇道のライフハック、究極のコストカット術よ!!」


「……あ、いっす。……今、さらっと『略奪』をかっこよく言い換えましたよね。……ブラックホール企業って、光(予算)すら吸い込んで二度と出てこないって意味っすか。……タイパ以前に、会社更生法レベルのバグっすよ」


コウタは冷めた目で、カナが足元に積み上げた「現地調達品(その辺に落ちていた石ころや、賢者が落としたボロ布の端切れ、商会長が忘れていった空箱)」を眺めた。

カナはそれらをトングで器用にまとめ上げ、ジジイのパン釜の横に並べる。


「にししし! 見なさい! この石ころも、私のカリスマで磨けば『魔導通貨』として流通させられるわ! 賢者! 貴様、このゴミ……じゃなくて、貴重な資源に、今すぐ『なんか凄そうな魔力の輝き』をエンチャントしなさい!!」


「ひ、ひいいい……! 石に……魔力を……? そんな、価値のないものに価値を付与するなんて、まるで錬金術の詐欺フェイクだよ……っ。……捕まっちゃう、僕、また警察に追われちゃう……!!」


「うるさいわね! 価値は私が決めるのよ! ほら、コウタ! 貴様もその端末で、この『カナ・コイン』のレートを爆上げしなさい! 一石、パン一個分(暗黒物質)の価値を持たせるのよ!!」


「……あ、いっす。……それ、ただのハイパーインフレっす。……てか、通貨の裏付けがジジイのクソマズパンっていうのが、一番の不確定要素リスクっすよ。……誰も欲しがらないっす」


カナは、コウタの正論を「フンッ」と鼻で笑い飛ばし、怪しく光り始めた石ころを高く掲げた。


 


「ちょっと、賢者! 貴様、魔力を込めすぎなのよ! 私の大事な『カナ・コイン』が、ただの石つぶてに戻っちゃったじゃない!!」


カナの怒声が響くのと同時に、職人の足元に転がった「カナ・コイン(光る石)」が、凄まじい轟音と共に爆発した。

粉塵が舞い、職人たちは「ひいいっ、テロだ! 水着のテロリストだ!」と叫びながら、クモの子を散らすように逃げていく。

せっかくの通貨発行(詐欺)計画は、一瞬にして爆風に消えた。


「ひ、ひいいいい……! ごめんなさい、ごめんなさい……! 僕、緊張すると……つい、出力が……デバッグできないくらい跳ね上がっちゃうんだ……!!」


賢者はボロ布を頭から被り、爆発の衝撃でひっくり返ったカエルのように手足をバタつかせている。

しかし、コウタが「……あ、最悪っす。……信用クレジットがマイナスどころか、爆散したっすね」と溜め息をつく横で、カナだけが、爆発した跡の焦げた地面をじっと見つめていた。


「…………。……にししし。ねえ、コウタ。……これ、使えるんじゃない?」


「……は? カナさん、今さら何に……」


「通貨として流通させるのは、一旦保留よ! それよりも、この破壊力! 貴様、これがどれほどの『現地調達品』になるか分かっていないのね!? これを穴に詰めれば、更地の開拓が捗るし……なんなら、これを『覇王のいかづち』として売り出せば、防衛産業への参入も夢じゃないわ!!」


カナは、焦げた石の破片をトングでつまみ上げ、狂気に満ちた(歪んだ)笑顔を浮かべた。

失敗を失敗と認めない。

むしろ、致命的な欠陥を「新機能(仕様)」と言い張るその厚顔無恥こそが、ブラックホール企業の真骨頂だった。


「……あ、いっす。……通貨から火薬へのピボット(業態転換)っすか。……確かに、タイパ的には物理破壊が一番手っ取り早いっすけど……。……カナさん、それ、完全に『死の商人』の歩む道っすよ?」


「失礼ね! 『更地クリエイター』と呼びなさい! さあ賢者、泣いている暇はないわよ! 今すぐその『出力過剰な呪い』を石に詰め込んで、百個ほど爆薬を量産しなさい!! 私たちのハイテク都市、まずはダイナマイトな再開発から始めるわよ!!」


「そ、そんなぁぁ! 僕はただの……石をくっつける魔法使いだったはずなのに、いつの間にか爆弾魔ボマーに転職させられてるよぉぉ!!」


「……あ、……あ、……」


コウタが爆薬の詰まった袋を担ぎ、丘の向こうへ姿を消してから、わずか数分。

カナは、先ほどまでの威勢が嘘のように、その場に力なく膝をついた。

手元にはトング、足元には爆発寸前の魔導石、そして目の前には、自分以上に使い物にならない、ガタガタと震え続けるボロ布の塊(賢者)。


「……コウタ。……コウタは……? ……あいつ、本当に行っちゃったの……? ……私の……私の『これ、どうすればいいのよ!』っていう理不尽な問いかけに……冷たく、でも的確にツッコんでくれる相手が……いない……」


カナの瞳からハイライトが消え、まるで電池が切れた操り人形のように、ゆらゆらと体を揺らし始めた。

彼女の「覇道」という名の暴走列車は、コウタという名の「ブレーキ兼レール」があって初めて成立していたのだ。

一歩先は崖、あるいは自爆。


「ひ、ひいい……! カナさん、しっかりして! 石が、石がまた赤く光りだしたよ! 出力を下げなきゃ……っ、どうすればいいの!? 僕は、僕は誰に指示デバッグを仰げばいいんだぁぁ!!」


「にししし。……む、無理よ……。……私……実は、自分一人じゃ……パンの袋すら……開けられないのよ……」


「そんなカミングアウトいらないよぉぉ!!」


カナは、コウタがいつも立っていた場所を虚ろな目で見つめ、完全に廃人と化した。

自分を肯定し、制御し、時にゴミを見るような目で見てくれる家来がいない世界。

それは、彼女にとって「何をしても、誰にも怒られないし、誰にも拾ってもらえない」という、究極の恐怖バグだった。


「……コウタぁ……。戻ってきなさいよ……。売り上げの〇・一パーセントを、一パーセントに……いや、思い切って三パーセントにしてあげるからぁ……。じゃないと、私この爆発する石を、間違えて食べちゃうわよぉぉ……」


「食べないで! 絶対に食べないで!!」



「……コウタ。……コウタぁ……。……今頃、私の悪口マーケティングを言いながら、美味しいパンを食べてるんでしょ……。……一人で行かせなきゃよかった……。……寂しくて、王冠が重いわ……」


カナは、更地のど真ん中で虚無の表情を浮かべ、トングで力なく地面を掘り返していた。

コウタが営業の旅に出て数日。

彼の不在は、カナの精神を「覇王」から「孤独な引きこもり」へと一気にダウングレードさせた。

あまりの廃人ぶりに見かねた賢者が、泣きながら提案したのがこの「メンタルケア農業」である。


「ひ、ひいいっ、カナさん! 寂しいからって爆弾(石)をいじっちゃダメだよ! ほら、このクワを持って! 土をいじれば、脳内に幸せな物質エンドルフィンが出るって……設計図(古文書)に書いてあったから……!!」


「…………。……土……。……あいつ、いっつも『カナさんの頭の中は更地っすね』って言ってたわね……。……なら、私は、自分の中を耕すわ……」


カナは死んだような目でクワを振り下ろした。

更地の片隅で、水着姿の少女がぶつぶつと独り言を言いながら土を耕す。

その背後では、ジジイが新しく作った魔導パン釜で、相変わらず「暗黒物質」を焼き上げていた。


「……ふぉっふぉ。……良い土じゃ。……パンの粉を混ぜれば、もっと良い土になるかもしれん……」


「ジジイ! 余計なことしないで! 肥料にクソマズパンを混ぜたら、芽が出る前に大地が腐っちゃうよぉぉ!!」


賢者は、発狂寸前のカナを宥めつつ、街道整備の魔法陣を地面に刻み込む作業に追われていた。

コウタという唯一の「管理職(ツッコミ役)」を欠いたこの地は、今や「廃人の農作業」「徘徊するパン屋」「パニック寸前の土木賢者」という、混沌の極みへと突き進んでいる。


「……あ、……あいつが帰ってきたら、この大根(予定)を、口の中に……突っ込んでやるわ……。……そしたら……『あ、いっす。……カナさん、これ、泥の味しかしないっすね』って……また……言ってくれるかしら……」


「カナさんの情緒がバグりすぎてて怖いよぉぉ!! 誰か、誰か早くあの冷徹な人を連れ戻してきてよぉぉ!!」




「……あ、……あ、……コウタ……。……寂しい……。……寂しさが……私の筋肉を……突き動かすのよ……」


更地の夜は暗く、静かだ。

本来なら休息を取るべき時間だが、カナの「無限のスタミナ」は、彼女の「飢えた寂しさ」と最悪の化学反応を起こしていた。

ハイライトの消えた瞳で、カナは機械的な動作でクワを振り下ろし続ける。

その速度は一向に衰えず、むしろ闇が深まるにつれて加速していった。


「ひ、ひいいいっ! カナさん、もう三日目だよ! 一秒も休まずに、もう十ヘクタール以上も開墾してるじゃないかぁぁ!!」


賢者は、あまりの恐怖にボロ布の端を噛み締めながら、カナが掘り返した広大な大地を見渡した。

そこにはもはや「家庭菜園」の面影はない。

カナの執念によって、一帯の地平線が見えるほどに土が完璧に反転され、石ころ一つ残らない「究極の更地」が爆誕していた。


「……にししし。……耕せば……耕すほど……コウタのツッコミに……近づける気がするの……。……あいつが帰ってきたときに……『あ、いっす。……カナさん、やりすぎて地面の層がバグってるっすよ』って……言わせるのよ……」


「そのためにこの広大な土地を一人で開墾したの!? 重機のバグみたいな動きだよぉぉ!!」


カナの異常な体力は、今や「開拓」を通り越し、地形を書き換える「環境改変」の域に達していた。

ジジイがパンの粉を撒く間すら与えず、彼女は目にも止まらぬ速さで土を跳ね上げ、道を作り、水路を掘り抜いていく。


「……ふぉっふぉ。……元気な娘じゃ。……あまりに動きが速すぎて、わしのパンの匂いが追いつかん……」


「ジジイ! 呑気なこと言ってる場合じゃないよ! カナさんの体力が無限なせいで、このままだと明日には隣国まで耕しちゃうよぉぉ!!」



「……あ、……あ……。……掘らなきゃ……。……掘って……コウタの帰る場所を……更地にするのよ……」


地平線の彼方まで、一石の淀みもなく整地された「究極の農地」が広がっていた。

カナは四日目の不眠不休を迎え、泥にまみれた水着姿で、もはやクワというより「概念」を振るうように手を動かし続けている。

そのスタミナは底を知らず、執念だけで隣国の国境線を文字通り「耕して」消滅させていた。


「……あ、いっす。……カナさん、ただいま戻ったっす。……って、何すかこの大空地デス・デスバレー。……俺、営業に行ってただけで、世界を創世し直せなんて言ってないっすよ」


丘の向こうから、聞き慣れた、そして世界で一番安心する「冷徹な声」が響いた。

コウタはパンパンに膨らんだ金貨の袋と、香ばしい匂いを放つ「まともなベーコンとパン」を抱えて立っていた。


「……コ、……コウタぁぁぁぁ!!」


カナは無限のスタミナを全開にして爆走し、弾丸のような速度でコウタの胸に飛び込んだ。

泥と涙と鼻水が混じり合った、覇王の全力タックルである。


「……うおっ。……ちょ、カナさん、重いっす。……てか、何すかこの達成感。……予算、ガッツリ稼いできたっすけど……この土地の広さ、全部にインフラ引くのタイパ最悪っすよ。……もう、ここ今日から農業大国にするっすか」


「コウタぁ……! 寂しかったわよぉぉ! 貴様がいない間、私、土しか友達がいなかったのよ!!」


カナはコウタに縋り付き、その清潔なシャツに泥を塗りたくった。

コウタは一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、そのままカナの泥だらけの頭を、無造作に、だが確実にその場に留めるように押さえた。


「……あ、いっす。……とりあえず落ち着くっす。……カナさん、お互い、くせえっす」


「…………え?」


「俺は馬車に揺られて汗だかっすし、カナさんは……これ、泥と汗と、ジジイのパンの粉が混じって、発酵したドブみたいな匂いがするっす。……覇王の威厳が台無しっすよ」


コウタは呆れたように息を吐くと、カナを引きずるようにして、例の「ボロ布の岩塊アジト」へと歩き出した。



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