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銀河後始末船《リターン》〜誰も受け取らない荷物、承ります〜  作者: たいよう
銀河後始末船《リターン》 〜1〜 皇帝、受取拒否
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04_三人目の受取人

《リターン》の左推進器は十三度外を向いていた。燃料は八パーセント。中立自由港クレーの緊急料金は、通常の十二倍だった。


メルは監査同行便の申請をラーダへ送った。通れば、寄港費を委員会が立て替える。ラーダは〈安全な運航を確認した〉の欄で指を止めた。


「ここだけ署名して」


「また止めろと言ったら、止めますか」


「止めたでしょ。あのあと」


ラーダは署名せず、端末を返した。


メルは通常入港を選んだ。料金が船の債務へ載った。


クレーは、市場と裁判所の街だった。休戦協定が定めた皇帝の引渡し先の一つで、戦犯と国家元首を一時拘束できる。メルは裁判所へオルバンの認証記録を送った。


『本人確認の審理まで、当港で仮拘束します』


執行官が船へ入り、オルバンを移送箱へ連れていった。扉に拘束番号が点く。メルは受領端末を出した。


『身柄は拘束します。帝権貨物としての受領は別の裁定です』


「ここで降ろすのに?」


『皇帝を裁くことと、帝国の門や艦隊を預かることは別です』


ハコの保管者欄には、まだメルの名があった。棺は船内に封印される。


審理は三日後。休戦一周年まで十九時間。前金は燃料と修理に消え、入港料金も払えなかった。船へ差し押さえ封印が貼られた。


メルは船の備品一覧を開き、予備寝台と折り畳み椅子に印をつけた。すぐ金にできる物は少ない。港の〈所有者申請による即時競売〉を選び、売却へ署名した。


牛も旅行鞄も花も、預かり物だった。出品欄から外し、一時保管庫へ送る。


ボグが荷下ろし口で端末を見ていた。船渠整備班の採用通知だった。定時勤務、個室つき。画面を閉じ、持参工具の欄へ自分の工具箱を登録した。


メルは見なかったことにした。


競売まで四十分。留置区画、保管庫、競売場へ向かうコンテナが、同じ天井の梁に吊られた。分岐だけが三本に分かれている。


ハコが内容表示を貼る。〈皇帝〉。〈皇帝の朝食・殻を含む〉。〈牛〉。〈もう一頭の牛〉。


「剥がして」


「拘束対象、預かり品、売却品は区別済みです」


「大きい文字の話」


真珠色の手袋をした記念品業者が、〈皇帝〉を指した。


「あれはいくらから?」


『人は出品対象ではありません』と競売機。


「そちらの椅子なら、皇帝の使用履歴があります」とハコが言った。


開始価格は百クレジットだった。業者が手を上げた。


メルは留置区画の扉を見た。オルバンの移送箱が、そこへ向かっている。三日待てば式典は終わる。船を売り切っても、あの扉は開かない。


「ボグ。仕切りの裏で止めて」


「腕が空けば」


二本で梯子をつかみ、残り二本で底の抜けかけた〈牛〉を支えていた。メルは空き台を押し入れた。牛が載る。二本の腕が空いた。


ボグは梁へ上がり、移送箱の上蓋へ切断器を当てた。拘束封印が切れ、警報が鳴った。


銀の肩章が仕切りの上へ現れた。


「二千」と業者。


メルの椅子が落札され、代金は入港料の一部へ充てられた。彼女は表示を閉じ、ボグが隣へ寄せた朝食箱をつかんだ。オルバンが頭から入る。


箱が傾き、オルバンの身体が滑った。ラーダが右肩で台車を押し込み、ボグが吊り具を外した。箱が落ちる。


「食器が割れる!」


「先にあんた!」


留置区画から執行官が走ってきた。ボグは梁の分岐を船側へ蹴り込み、曲げた吊り具を噛ませる。預かり品の箱が続けて船へ戻った。


三人は台車を押して走った。逃げる朝食を執行官が追った。


貨物扉の前でラーダの端末が鳴り、台車が曲がった。


「ソレルから命令が来た」


対象を鎮静し、旧帝都アウレリアの保管庫へ返却せよ。


添付は〈帝位休止計画〉。帝国宰相とソレルの署名。開始日はオルバン失踪の前日だった。


「返却先を知ってる」とメルは言った。


箱から皇帝を引っぱり出し、空箱を通路へ戻す。四人が貨物室へ滑り込むと、裁判所の裁定が届いた。


『当港は帝権の保管責任を引き受けず、皇室輸送憲章に基づく受領を拒否します。身柄の仮拘束令は継続します』


受領拒否と、拘束対象の即時返還命令。二枚の文書に同じ裁判官の署名があった。


「第三回受取拒否を確定しました」とハコ。


船の外装灯が金色に変わり、〈貨物保管者〉の表示が消えた。


〈臨時摂政候補〉。


「消して」


「法的区分です。就任時の初回再認証猶予は八十七秒」


ボグが表示板の電源を抜くと、非常灯に同じ文字が出た。


冠網から全星系へ通知が流れた。


『継承未了。国家存続期限まで十八時間。期限到達時、民生冠門を閉鎖し、継続艦隊を起動します』


市場が静まり、《リターン》の賞金額が跳ね上がった。


ソレルから私信が入る。


『オルバンの回収を委員会へ任せてください。船は債務ごと買い上げ、代船を貸与できます。契約を送ります』


ローン残額が一クレジット単位で表示された。その横へラーダが極秘資料を置いた。


「あなたを誘拐犯にした人間は、皇帝が生きていると最初から知っていました」


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