↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河後始末船《リターン》〜誰も受け取らない荷物、承ります〜  作者: たいよう
銀河後始末船《リターン》 〜2〜 国葬本人未着
PR
20/25

10_配送完了、死亡訂正中

第十九門市民評議会は、国葬から三時間後に《鎮星》を受け取った。


正確には、《リターン》の腹へ結ばれた二十二メートルあまりの竜骨、焼けた継承区画、白い仮面の判断核、それらを桃色の花輪で包んだ荷物を受け取った。


花卉船は区画の荷重を曳航環で支え、《リターン》は自船分の推進と姿勢保持を受け持った。速い配達ではなかった。花を傷めない範囲で運んでほしいという条件には、メルも承諾していた。


桟橋には評議員と整備員、それからカイの家族がいた。式服の人々の間で、普段着に黒い腕章をつけた一団だけが、迎えの列から少し外れていた。


カイは退船口で止まった。メルは後ろで、次の整備員を通すための信号を持っていた。


妻が二歩進み、足を止めた。カイは片手を上げたが、彼女はその手を見なかった。額の縫合糸を見て、首元を見て、また顔へ戻った。


「どうして連絡を」


「発信器が壊れた。予備も、艇の電源と一緒に――」


「聞いた。さっき、聞いたの」


カイは口を閉じた。手は上がったままだった。


妻の靴の先が、桟橋の継ぎ目に当たっている。カイは「そこ」と言いかけて、自分が一歩降りた。


退船口の滞留警告が出た。工具箱を持った整備員が、通れるかと目で訊いた。メルは首を振り、反対舷の経路を送った。そちらは機材を手で運ぶ距離が長い。追加作業を自分の船の勘定につけ、警告の音だけを切った。


マイアが通路の端へ下がった。誰も走らなかった。抱き合うまでの距離を、三日前に死を受け取った人々は、自分たちの速度で縮めた。


妻の手が、カイの上げた腕をつかんだ。肩へ届く前に、一度強く握った。


メルは退船口を開いたまま、係留作業を続けた。


銀色の鍵が継承架から外れ、評議会の門管理室へ運ばれた。ラーダが全経路を記録し、オルバンが失効署名を加える。《鎮星》から次の代表へ、引渡しがつながった。


「第十九門現地鍵、正式引渡し完了。未配達件数、三百二十六」とハコ。


一件分の報酬が入り、債権会社へ送られた。七日以内に最初の一件を届ける条件は満たした。《リターン》を失う期限だけが収支表から消えた。


メルが残高を開く前に、ボグが破れた冷却器を運んできた。下側の腕で部品を支え、上の一本で裏の型番を示した。


「旧防衛砲に同じものがある。払下げなら直る」


主機は冷えても再始動しなかった。右姿勢推進器も索で歪み、厨房の接続部は押し潰されたままだった。メルは部品代を聞いてから、払下げの申請を送った。


救護費の立替依頼が入ったのは、その途中だった。


客船の船長は、入金先より先に照準の記録を求めた。何が起きたか、乗客へ説明しなければならないという。


「照会を送ったところから渡す」


メルは自分の署名が入った最初の申請から選んで送った。ラーダが照合を済ませ、公開監査記録への参照を添えた。


『受け取りました。こちらの報告は、まだ揃いません』


「寄港後でいい」


『はい』


回線は切れた。メルは立替金を送った。誰がどこまで負担するかの調査より、支払日のほうが早かった。


ボグは部品を床へ下ろし、冷えた下の腕を温風口へ寄せていた。メルは隣へ座って、修理費と曳航料を計算し直した。


評議会の追加報酬は修理費の七割。国葬船の切断分は別審査だった。


「救った船を壊した請求と、壊して救った請求は別書式です」と評議員が通信で説明した。


「同じ請求書にして」


「制度上、できません」


ハコが二枚を受け取った。支払日はどちらも今日ではなかった。ローン完済予定が十一日遠のき、メルは残高の窓を閉じた。


しばらく、払下げ許可も来なかった。


離れた作業台で、オルバンが補足の証言を書いていた。ヨナに手を診せるよう呼ばれると、書きかけの一行を見て、筆記端末を置いた。ラーダの台へは寄らず、自分の写しだけを預けて医療区画へ行った。


メルは冷却器へ肘をつき、袖を濡らした。部品を少し向こうへ押すと、下に青い水が溜まっていた。拭く物を探しているところへ、マイアが判断核の台車を押してきた。


門管理室へ最後の引渡しに行くところだった。台車を押しながらも、問い合わせへ返事を送り続けている。


〈亡くなったのは辺境司令としての職務です。カイ・レン本人は生存しています。国葬は取り消しません〉


「葬儀の記録も全部残すの」とメルは訊いた。


「ご家族が受け取った三日を、なかったことにはできません」


桟橋にはもう、カイの家族はいなかった。通路を閉じる係員が、外れた黒い腕章を拾っていた。


メルは台車のブレーキを押さえ、マイアが段差を越すのを手伝った。引継票には、最後の弔辞の録音も含まれていた。門管理室から受信確認が来ると、白い仮面が灯った。向こうの担当者が録音の再生を始め、マイアは台車を止めたまま待った。


その先でも、生存訂正は別々の順番で届いていった。軍用急行では〈司令官戦死〉が先行し、冠門通信では〈辺境司令職の終葬完了〉が届き、通常便では〈カイ・レン生存〉が進んだ。ある星では英雄が二度死に、別の星では一度も死なずに退役した。


翌朝、カイから連絡が来た。借りた上着をどこへ返せばよいか、という用件の末尾に、証言と治療で少なくとも半年は居住環に残るとあった。口座も止まったままだという。メルは《永遠便》の連絡先を返した。家族と写した写真は添えられていなかった。


《永遠便》の四人は、空になった霊柩艇で次の依頼へ向かった。出発前、キリクが潰れた厨房へ蒸留酒を一本置いた。サフランが〈機関洗浄剤〉と登録した。ヨナが「飲むやつじゃないの?」と訊いた。マイアは表示を直さなかった。


《リターン》の主機が再起動したのは、到着から十九時間後だった。


ボグの〈一便〉契約は、十九番鍵の正式引渡しで終わっていた。


「次も乗る?」


メルが訊くと、ボグは工具を拭いてから答えた。


「未払い給与を先に一割。下段暖房を直す。勤務が終わったら呼ばない」


「故障したら」


「故障は勤務だ」


メルは雇用書の無期限欄を閉じた。


「第二十門まで。一便」


ボグは下の二本の腕を温風口へ向けたまま、署名した。


出航前、オルバンが貨物室の固定帯を点検していた。留め具を引き、番号を読んでいる。ハコの表示は、どれも先に緑になっていた。


「掌は」とメル。


「痛む」


「替わる?」


オルバンは残りを数えた。


「あと十二本だ」


メルは隣の帯を取った。


「六本ずつ」


貨物室の向こうでは、ラーダが次の航路届を開いていた。評議会の作業船へ引き継いだ機雷除去はまだ終わらず、注意欄が残っている。運航保証の欄は空白だった。オルバンの初回審理と、クレーの拘束破り照会も予定表に残っている。


ハコが次の宛先を告げた。


「第二十門、受取代表は生存。政府も存続。国葬予定なし」


メルは少しだけ安心した。


「ただし受取代表は、当船より四日前に出発し、通常便でこちらへ向かっています」


「止めて」


「通信を送りますか」


「船を」


《リターン》は第十九門の手前で推進を切った。次の受取人と会うまで、最短で九時間。待機燃料、三百四十クレジット。


メルはその額を収支表へ入れた。


ハコは九時間の待機を共同法廷へ届け出た。初回審理への出頭予定は維持された。


以前なら遅配と数えた時間だった。いまは、相手が着くまでそこにいる費用だった。


第三章 暗殺命令本人発送 に続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。