01_受取人は九時間かけて戻ってきた
次の受取人は、九時間遅れて正面から来た。
「避けて」
メル・ハーディは操縦桿を右へ倒した。
小型連絡艇が《リターン》の左舷のすぐそばを通過した。白い船腹には〈第二十門自治領〉、その下に〈至急〉と書いてある。至急の船が受取人を乗せて、届ける側へ向かっていた。
青い球形のハコが計器盤から浮かんだ。
「受取代表の生体情報を確認。ソア・ネイス水路管理官です」
「止まれって送ったよね」
「待機に入ってすぐ、中継所へ預けました。直接波への応答はありません」
「届くのは」
「十一時間後です」
「追い越したね」
「はい。当船と同様です」
連絡艇の通信用アンテナは根元から曲がっていた。ソアはそれを指し、両手を広げた。
連絡艇は大きく回り、《リターン》の横へついた。操縦窓から、短い銀髪の女が両手で停止を示している。
互いの窓へ向けた短距離の光通信がつながった。最初に聞こえたのは謝罪ではなかった。
『鍵を渡さないでください』
メルは貨物室を見た。耐爆容器の中には、中央帝権を三百二十七に分けたうちの一つがある。前の鍵を渡し、評議会で修理を待ち、さらにここで九時間。残りは三百二十六だった。
「受取拒否?」
『違います。受け取ります。地上で』
「ここで受け取って」
『自治憲章上、第二十門の現地鍵は、管理区域の土壌へ接地した受取人が署名しなければなりません』
「船の床は」
『第二十門ではありません』
『現地で引き渡すと決めたんです。代表が逃げた船の上で、港を売り渡せないように』
ソアの息はまだ荒かった。メルは土を積む案を言うのをやめた。
ハコが同意するように一度明滅した。
「現地法を確認しました。受領地点は地表指定です」
メルは第二十門の惑星を拡大した。青灰色の星だった。受取地点は赤道寄りのネイス盆地。往復分の燃料はある。
問題は、盆地と宇宙港の間に表示された黒い帯だった。
「これは」
『戦場です』とソアが言った。
「休戦から一年たってる」
『戦場に伝えてください』
黒い帯は旧帝国の港と、連盟側の盆地を隔てた戦線だった。ソアが拡大すると、港の南端で帯がくびれた。両側の砲が同じ道を狙える区間は、そこなら二キロ。港の荷役場と盆地の点検場が、黒い染み一つを挟んで向かい合っている。
道路も低空航路も、この二キロで切られていた。地下鉄は動かない。水だけは、現地の作業員が手動で通し続けていた。
『解体業者が止めています。ただ、鍵を先に受け取ると要塞は主権交代と判断します。港側に残る住民二万三千四十七人が、敵性資産になる』
「全員を渡してから、受け取る?」
『はい。それまで父たちが水を通します』
ラーダ・セインが監査卓で名簿を開いた。紫の監査官服には、前の国葬船の煤が残っている。頁を送るたびに、同じ姓が何人分も続いた。
ソアの手元で、別の呼出しが点滅した。〈水門室・テオ〉。彼女は消し、すぐかけ直したが、相手はもう応じなかった。
『父が水門室にいます。ここ、点検場の手前。鍵を挿す台も同じ建物の地下です。ポンプを受け渡すまでは動かないって……住民の名簿には入れました。最後に必ず拾ってください』
「本人は乗るって?」
『私が連れていきます』
ソアは地下の照合台を呼び出した。父の名札は〈港側〉、ソアの名札は〈盆地側〉と返ってきた。二人は同じ水門を直しているのに、核に問い合わせるたび、昔の所属で分けられる。
メルはテオ一名を未乗船のまま残した。ソアは受入側なので、避難する二万三千四十七人には含まれない。
後ろで金属音がした。
オルバン十三世が、食器棚の扉を手で引いていた。表示は緑だったが、扉は二センチ開いていた。彼は閉め直し、もう一度引いた。
法廷の到着予定が、画面の隅に残っていた。修理港を発ってからの時計は止まらない。ラーダが初回審理への残り時間を確かめる。
「出頭航路を変えるなら、私にも先に知らせて」
メルはうなずいた。左手の固定具をつけたまま、ラーダは新しい受取地点を登録した。
警報が鳴った。
第二十門からではない。《リターン》の真後ろ、通常空間に何もない位置から、細い通信が届いた。
〈皇統遮断命令を受領〉
〈対象 オルバン十三世〉
〈全執行群同期まで九十四分〉
メルは振り返った。
「誰が送ったの」
オルバンは食器棚から手を離さなかった。
「私だ」




