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銀河後始末船《リターン》〜誰も受け取らない荷物、承ります〜  作者: たいよう
銀河後始末船《リターン》 〜2〜 国葬本人未着
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18/21

08_受取人を連れて帰る

ボグが残そうとした区画は、四十六トンだった。


登録竜骨に、鍵の継承架と判断核がついている。メルは図の底へ《リターン》の航法線と補助推進線を引いた。ボグが二つの接続口を囲んだ。


「切断と運搬。どっちも請求に残して」とメル。


ハコは請求先未定の欄へ入れた。


メルは作業表を開いた。まだ翼を引くための索しかついていない。切り出す区画には別の索が要る。ラーダとオルバンは鍵を継承架まで運び、ボグは切断の準備をする。終葬炉の配線を区画の縁へ組み替え、最後に切り離す。そのあいだ、自分は操縦席を離れられない。


第五十四扉の先を使えれば短い経路だった。そこは白い泡と溶接板で塞がれ、空気の予備も減っていた。全員を気密服に入れ、残った通路で作業をする。器材の運搬はキリク、服の気密確認とカイの介助はヨナ。サフランが通った人数を照合した。


オルバンは手袋へ指を通しかけて止まった。膜の下の傷が、関節を曲げると開いた。


「私も索を持つ」


「締めるのは俺だ」とキリクが言った。「いま渡したのを落としたろ」


オルバンは足元の留め具を拾おうとし、キリクに先を越された。


「人手が足りぬ」


「その手で数えろ。結び目と、残りと」


彼はしばらく立っていた。それから作業図へ番号を入れ、キリクの下側の腕が持つ索を指した。


「それが三番だ。二番はまだこちらにある」


最初の索を通し直すあいだ、オルバンは口を出さずに待った。確認を求められてから、自分の手でも留め具を引いた。


ラーダは彼の作業票に、引き続き別の署名をつけた。同じ端末は使わなかった。


メルは花卉船を呼んだ。


『こちらは、まだ客船を追い越せません』


「追い越さなくていい。式のあと、配達を一つ手伝ってほしい。花を一つ借りたい」


『花?』


「花輪を運ぶ輪っか。重さは四十六トン。推進の一部はこっちで持つ」


花卉船の船長は曳航環の仕様を送ってきた。上限は六十トン。ただし《リターン》まで丸ごと牽くことはできない。切り離し位置、相対速度、荷重の分け方を、メルと一つずつ合わせた。


『いま救護艇が客船へ移っています。終わるまでこちらは動かせない。それと、無償ではできません』


「見積もりを」


金額が来た。メルは息を吐き、承認した。


『では、受けられる状態になったらこちらから呼びます』


回線が静かになった。作業表の出発時刻は空欄になった。メルは航路へ戻り、花卉船からの呼出し音だけ大きくした。


ハコが主機の運転計画を示した。高負荷で十一分。そのあと主機を止め、残る補助推進で分離姿勢を保つ。冷却器の損傷は避けられない。止めた機関を、その場でもう一度使う計画にはできなかった。


「花の船が遅れたら」


「待機分を残す」とボグが言った。「それ以上は知らない」


メルは、引渡し直後に最速で評議会へ向かう燃料を削った。そのぶんを、切り離した区画の姿勢保持へ残す。借金の返済予定からも、同じだけ離れた。


主機を上げると、船尾厨房の戸棚が開いた。皇室用の皿が固定網へ降った。


「三枚割れた」とオルバンが言った。


「一枚は前から」とボグ。


「では私が割ったのは二枚だ」


オルバンは作業票へ記入し、次の留め具の番号を読んだ。


《鎮星》の左舷翼が動いた。主索から枝索へ力が分かれ、八キロの船の先端が、わずかに居住環から離れる。


まだ足りない。


メルは推力を一定に保った。窓の筋が近づいてくるのに、針路線はゆっくりとしか動かなかった。画面に見える索を何度も数えたが、数えても伸びは止まらない。ボグから、張力は計算内だという声が来た。


厨房をつかむ索の下で、接続枠が内側へ凹んだ。補助推進の配線は残っている。メルは歪みの表示を消さず、出力を保った。


棺は六門巡拝の柱の間を進んでいた。カイは傍らを歩き、戦歴の訂正を口述していた。


「敵艦二十四隻撃破、を消せ」


「弔辞の主要功績です」と《鎮星》。


「十二隻は放棄艦だった。八隻は私の艦隊じゃない。四隻だけだ」


「功績が減少します」


「事実に近づく」


壁から撃破数が消えた。新しい数字の前で、カイは少し黙った。


『その四隻のあとに、後送できなかった整備艇がある。それも残してくれ』


メルは棺室の映像を小さくした。視野の大半を、船外の索と居住環へ戻す。話し終わったかと訊く代わりに、マイアから次の段階へ進めるという報告が来るのを待った。


主機を十一分使った。


ボグが舵にした翼の軸を、その角度で留め直した。主索をゆるめても向きが変わらないのを確かめ、停止を告げた。メルは出力を落とした。補助推進が引き継ぐ。戻らなくなった温度計を、ボグが見ていた。


予測線は居住環の外へ出ていた。しかし分離に失敗すれば、区画の重さが向きを変える。《鎮星》が環を通り過ぎるまで、回避済みとは記録できなかった。


ラーダから通信が来た。


『継承架に到着。鍵と署名者、揃いました』


終葬の五分前だった。


メルは、操縦席に固定した受領端末へ手を置いた。


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