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銀河後始末船《リターン》〜誰も受け取らない荷物、承ります〜  作者: たいよう
銀河後始末船《リターン》 〜2〜 国葬本人未着
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03_生存者は遺体に含まれません

カイ・レンは、自分の国葬に正面から突っ込んできた。


小艇には減速能力がほとんど残っていない。《鎮星》が回収索を放つ一方、弔問船は遺体到着の礼に船首を下げた。小艇の進路へ、船底が次々に入り込んだ。


メルは格納庫に並ぶ小型曳航艇を見た。棺を静かに運ぶための船が六隻。右へ押すだけなら、自分の船を離艦させるより早い。


「動かせる人は乗って。小艇の左右へつく」


マイアとキリクが席につき、ボグが艇内へ工具を放り込んだ。ラーダは右手で操縦盤を確かめてから、足元のペダルへ制動を移した。最後の艇には、医療鞄を抱えたヨナが入った。


六隻が射出された。


棺を揺らさないための加速は、驚くほど緩やかだった。メルは操縦桿を押したまま、速力が上がるのを待った。追いかける小艇の窓越しに、額から血を流した男が見えた。


「カイ、聞こえる?」


『誰だ』


「配達人。あんたの次の代表へ荷物を持ってきた」


『私の次は評議会だ』


「国葬船」


しばらく返事がなかった。


『死んだほうが説明は簡単だったな』


小艇の前へ、花輪を満載した船の腹が出た。メルは曳航艇の磁気緩衝場を小艇へ重ね、左右の艇へ同じ角度を送った。


「押す」


小艇が横へずれた。花輪の金具が窓のすぐ外を流れ、次に船底の塗装が見えた。かすった音はしなかった。メルが息を吸い直す前に、《鎮星》の索が小艇をつかんだ。


六隻とも磁場で貼りついたまま、国葬船の腹へ引き戻されていく。


「回収しました」と白い仮面。「故人を棺室へ搬送します」


「生きてる」


「死亡記録があります」


「脈拍もある」


「記録形式が異なります」


格納庫へ降ろされると、キリクが四本腕で小艇の扉を開いた。カイは立とうとして膝をついた。ヨナがその前へ座り、医療計を当てた。顔を見てから、声の調子が少し変わった。


「そのままで。急に立たなくていい」


カイは片方の靴を脱ごうとした。膝が曲がらず、途中でやめた。靴の中に冷却水が入っていた。


ヨナが靴を外すあいだ、ラーダが身分端末を向けた。


「生存証明を記録します。事故地点と救助経路を」


「家族へ先に送ってくれ」


カイは端末のレンズを探した。顎を拭かれながら顔だけを向ける。


「生きている。第十九門に着いた。怪我はあるが、大丈夫だ。そちらへ――」


「まだ歩かせません」とヨナが言った。


カイは口を閉じた。マイアが、そこまでを家族の回線へ送った。撮り直すかとは訊かなかった。


メルは軍帽のある筒と、床に座っている男を見比べた。報告に必要なものはもう揃ったように思えた。本人がいて、自分の名を言い、鍵を受け取る意思がある。死んだ宛名を生きた宛名へ戻せばよい。


「葬列は止められるんだな」とカイが言った。


「停止すれば防衛網が旧標的表を再開します」


ラーダの返答に合わせ、壁へ現行船籍が映った。赤は千八百四十六隻。帝国籍、連盟籍、徴用識別。カイはそのうち一つを拡大した。


「まだこの船籍を使っているのか。訂正は」


「未着です」


カイは壁へ手をついて立ち上がった。ヨナが止めたが、肩だけを振って離れた。


「なら私に戻せ。指揮権を戻せば止められる。更新を確認し、葬列を解散させる。家族も船に乗っているんだろう」


彼の指は、自分の家族の船を探す前に防衛環を広げていた。砲塔の向きと、船の並びが画面に重なる。


「東側の船を外へ出せば間隔が取れる。この翼の故障も、曳船を入れれば――」


「いま外へ出せば撃たれます」とラーダ。


「だから、命令できるようにしてくれと言っている」


メルは送り状を開いた。最初の宛名はカイ・レンだった。死亡による繰上げ、その次に国葬船。目の前の本人へ戻せれば、火葬される受取船を残す算段まで要らなくなる。


「復帰の確認には何分かかる?」


「旧司令部への照会です」とハコ。「生存訂正だけなら通常便。復職申請には戦時優先回線が残っています。返答時刻は保証されません」


「生存証明に復職は必要ありません」とラーダが言った。「別々の申請です」


「分かってる。どちらも本人でしょう」


「署名する目的が違います」


カイは画面の復職欄を引き寄せた。


「私の意思だ。私が受け取る。それで終わらせよう」


メルは、遅いほうの回線だけを使う理由を探した。復帰が通らなければ、予定どおり《鎮星》へ渡す。通れば、もっと早く安全になる。引渡し先を二つ用意することが、余分な危険になるとは思わなかった。


「生存訂正は送る。それとは別に復帰も照会して。先に通ったほうで受け渡す」


ラーダは本人の署名を記録した。メルは受取人再照会へ自分の名を入れた。


送信が終わると、カイは胸元の司令章をまっすぐに直した。ヨナがもう一度座るように言う。今度は腰を下ろしたが、視線は防衛環から離れなかった。


「照会受付。返答まで現地代表は《鎮星》を維持します」


メルは二通の控えを並べて残した。


《鎮星》の納棺腕が降り、カイの身体を寸法計測した。透明な棺が床からせり上がる。


「故人の到着を確認しました。入棺の儀を再開します」


カイは壁の戦術図から、初めて目を離した。


「まず私をあれに入れない方法から考えてくれ」


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