第95話 白い仮面、故郷に立つ
石室を駆け上がった五人が見たのは、丘の稜線に立つ、白い仮面だった。
夕闇の中、ゼクスの周囲で、黒い炎が、蛇のように地を這っている。仮面の奥の眼が、焼け跡の村を、ゆっくりと、舐めるように見渡した。
「……ああ。ここか。ここが、偽神の火の、生まれた場所か……」湿った声が、恍惚に震えた。「香ばしい。土の下から、偽りの光の匂いがする……掘り返し、燃やし、浄めねば……」
黒い炎の蛇が、鎌首をもたげ——丘の上の、ふたつの墓へと、這い寄った。
その瞬間、ルカの中で、何かが、静かに沸点を越えた。けれど、爆発は、しなかった。四つの炉が、荒れ狂う熱を受け止め、流し、鎮める。ルカは、これまででいちばん静かな、そしていちばん冷たい声で、言った。
「——そこから先は、僕の家族の場所だ。一歩も、入るな」
金色の閃光が、黒い蛇を、薙ぎ払った。ゼクスの仮面が、初めて、まともにルカを向いた。
「……見つけた。偽神の、末……! 火種は、根ごと、ここで——!!」
黒炎と金光が、夜の焼け跡で、激突した。ゼクスの炎は、ベルガの剛力ともネフィスの奸計とも違う、燃やすことしか知らない、純粋な狂気だった。だが、五人は、もう、あの頃の五人ではなかった。ドランの剣が黒炎の軌道を裂き、カイの槍が退路を縫い、セラの結界が墓の丘を包み、ミラの火が——黒い火と、真っ向から、押し合った。
「あんたの火は、燃やすだけの火!」炎の中で、ミラが吼えた。「私の火は——守って、拵える火よ!! 格が、違うのよ!!」
拮抗が、崩れはじめる。ゼクスの黒炎が、じり、じりと、押されていく。仮面の男は、後ずさり、夜空を仰いで、絶叫した。
「おお、神よ!! 我が神よ!! 偽りの光が、御身の僕を——御力を、御力を我に——!!」
その、祈りの絶叫に。
「——騒がしいぞ、ゼクス」
静かな声が、答えた。
戦場が、凍りついた。焼け跡の入り口——一年前、魔物の軍勢が雪崩れ込んできた、あの村の門の跡に。粗末な外套の、一人の若者が、立っていた。夜を溶かしたような黒髪。血の色の瞳。ただ立っているだけで、夜の空気そのものが、重く、軋んでいた。
ルカの光の眼が、視た。視て——理解した。底が、ない。ガルドスが山脈なら、これは——夜そのものだった。
「ま……魔王、様……」ゼクスが、雪崩れるように、跪いた。
ヴァロスは、狂信の司祭を一瞥もしなかった。血の色の瞳は、ただ、まっすぐに——星鉄の剣を構える、白い一房の少年だけを、映していた。
「……初めて、まみえるな。勇者、ルカ」
千年の因果の、その果て。滅ぼした者の末裔と、滅ぼされた者の末裔が、すべてが始まった村の焼け跡で、いま、初めて、向かい合った。




